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〈坂本美雨さんの子育て日記〉21・もし、娘に恋愛相談されたら

  (2018年6月8日付 東京新聞朝刊)

坂本美雨さんの子育て日記

クッキー…味わいつくしてね

人を想うこと

 妊娠中、女の子だと分かった時から、考えていたことがあった。ハタチくらいで恋愛相談をされたとして、もし彼女が報われなさそうな、もしくは傷つきそうな相手をとても愛していたら「そこまで好きなら、とことん向き合いなさい」と言うだろうか。それとも彼女が苦しまない方向へ、導こうとするだろうか。その時に彼女を愛してくれるすてきな男の子がいたら。その男の子とならきっと彼女は穏やかに過ごせる-。

 そんなシチュエーションを想像しては、どうしようと悩んでいた。友達には「早すぎでしょ!」と笑われるのだけれど考え続けてしまう。どうやら私にとって、これは大事なテーマのようなのである。突き詰めると恋愛の問題ではなくて生き方の姿勢の話。もちろん、決めるのは彼女だ。親の望むようにしてほしいとは思わない。だけどきっと、この件については母として自分が軸をしっかり定めておかないと「あなたの人生だから自分で決めなさい」とも言えない気がしている。

 もちろん、子どもにはどんな形であれ傷ついてほしくなんかない。だけど自分のことを振り返れば、好きになった人によって、こんな自分があるのか…とびっくりするほど知らない自分に出会えた。自分の醜い姿、不安や嫉妬や怒りも含めて、人を強く想(おも)うことが連れてきてくれたさまざまな感情は財産だと、心から言える。

映画が気づかせてくれたこと

 家族ができ、今が安定しているからそう思えるのではない。これからだって心が破れるようなことが、あるかもしれない。でもきっと生き延びる。傷ついても、人を想うことは喜びだと信じてる。そういう生命力は、最初からあったものではなくて、人ととことん向き合うことから生まれたんだと思う。子どもが苦しむのを見ていられないのも愛だ。でも、痛みを味わうかもしれないことをずっとそばで見ていることも、愛だ。

 とてつもなく美しい映画「Call me by your name(邦題「君の名前で僕を呼んで」)」を観(み)てこの話を書こうと思ったのだけど、映画とのつながりはネタバレになってしまうと途中で気づき、もどかしい。イタリアの避暑地での一夏の恋の映画が、予想外にも親としてのこれからに、影響を及ぼすであろう作品になった。

 これだけ考えても、私がそうであったように、娘は恋愛相談なんかしてくれないかもしれない。そうしたら、黙って一緒にこの映画を観ようと思う。(ミュージシャン)