〈坂本美雨さんの子育て日記〉1・進んだら もう戻れない

(2016年5月27日付 東京新聞朝刊)

坂本美雨さんの子育て日記

CDジャケット撮影時に、娘と

9か月、ベッドから落ちた日

 昨晩、生後9カ月の娘がベッドから落ちた。眠りが深く、ほとんど夜泣きもしないけれど、最近は動きが激しく、寝相の“自由度”も格段と上がった。普段は娘をベッドの壁際で寝かせ、私たち夫婦が壁になっているのだけど、大人の就寝時間まで娘は1人。そんな時、ベッドルームからバサッと妙な音が聞こえ、反射的に食べていた棒アイスを放り出して飛んでいくと、娘がベッドから落ちた状態でムニャムニャ言っていた。

 幸い、ベッド脇に置いた枕のおかげで痛くはなかったようで、泣きもせず、そのまま寝始めたけれど、私は彼女を抱いたまましばらくドキドキが止まらなかった。今、これを読んだ先輩お父さんお母さんは、そうよ子どもはいろんな所から落ちるもの、そして意外と大丈夫なものよ、とうなずいてくださっているかもしれない。私も何事も心配しすぎないように努めているけれど、いざとなるとそんな余裕は吹っ飛んでしまう。

 ただ、1晩たって思い返してみると、そんなに大きくなったかあ…と感慨深い気持ちも湧いてくる。熟睡しながら力強く布団を蹴って大きなベッドの上を転げまわり、落ちても泣かないくらいにタフになったのか、と。あんなに壊れそうだった赤ちゃんは、いったいどこへ?

発見と驚きの日々

 今朝私が目覚めると、いつの間にか彼女は1人で上手に床に降り、壁に向かってつかまり立ちをしながら、得意げに笑っていた。「ねえそれ、親離れなの…?」と思わずつぶやいてしまった。

 2015年7月に誕生してから、毎日新しい顔を見せてくれる彼女。よく笑い、よくしゃべり(もちろんまだアーなどの喃語(なんご))、積極的で、楽しげな雰囲気にすぐつられるお調子者(笑)。寝がえり、お座り、ハイハイ、立っちと次々とクリアし、もうすぐあんよの時代がやってくる。

 こんなにも、進んでしまったら「もう戻れない」という事実を突きつけられながら暮らすのは、初めてのこと。こんなにいいかげんな自分が子育てをしているだなんて、いまだに嘘(うそ)みたいだけれど、彼女の目を通して見る世界のこと、発見や驚きや喜びを書き留めていけたらと思います。(ミュージシャン)

さかもと・みう 

1980年生まれ。音楽家の坂本龍一さんと矢野顕子さんの長女。音楽活動以外にも、ラジオのナビゲーターや執筆などマルチに活動中。

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