〈田中健さんの子育て日記〉31・敏腕マネジャー?

(2018年2月9日付 東京新聞朝刊)

娘の力添えもあり、公演中、僕は「元気な子」でいられた

 前回の「子育てをあまりしておらず日記」に続き、今回は、芝居の稽古と公演中の「子に育てられ日記」です。 

 新作の3人芝居の膨大なせりふと役作りに苦闘したことといったら…。夜も眠れず、底抜けに人の良い共演者の辰巳雄大(たつみゆうだい)君(ジャニーズ「ふぉ~ゆ~」)が「自主練を一緒にしましょうか」と提案してくださるほどでした。

「輝」印

 しかし座長に負担はかけられません。以前付き人をしてくれた俳優の古川康(やすし)君に助けを求め、クリスマスも年末年始も自宅で自主練習を積みました。家内はそうした練習の調整や食事作り、10歳の娘は日本茶や淹(い)れ方を覚えたコーヒーで支えてくれました。

 正月には、僕らが練習をしている真横で、娘が宿題の書き初めを広げ始めました。隣でされると気になるものですが、練習場所は日差しが暖かく、長い紙を広げるにもちょうど良かったのでしょう。本来は遊び相手の僕が練習に明け暮れていたので、娘も寂しかったのかもしれません。

 休憩かたがた、役柄のマフィア気分のまま僕も一枚書いてみると、娘が思いがけず大きな笑顔を見せました。よほどうれしかったのか、その1枚を学校に提出。先生が「お父様も上手に書けましたね」とのひと言と共に、「輝」印を押してくださいました。

灸を据えられて

 そして舞台が開幕。昼公演のみの日は、帰宅すると娘が「灸(きゅう)」を据えてくれました。家内が自分用の灸を、手の届かぬ首周りに置くように娘に頼んだのが発端です。そのまま心地良く眠り込んだ家内を見て、「お父さんにも試そう!」と思いたったようです。

 家内は妊娠中も鍼灸(しんきゅう)治療を欠かさなかったので、娘には気持ち良さの胎内記憶があるのでしょうか。1歳頃から喜々として自ら治療台によじ登り、おなかを出しては大人たちの笑いを誘っていました。

 お世話になっている鍼灸師の竹村文近先生がツボ一覧表を娘に下さり、一層本格的な灸になりました。「お父さんも体が温まったまま眠るといいよね」。最後は頭もなでられて、サプリメントや長風呂との相乗効果でしょうか、まじないがかかったように深く眠れる日々となりました。

 大雪の翌朝にタクシーがつかまらず、「転ばぬように」と心配されながら電車で劇場に行こうと決めると、休校で自宅にいた娘は、劇場の最寄り駅まで付き添ってくれました。子どもに深く思われて、僕が役者として少し成長できたような、立場逆転の日々でした。 (俳優・ケーナ奏者)