〈奥山佳恵さんの子育て日記〉42・「ごめんなさい」を受け入れてもらえると、生きた心地がする

(2023年6月28日付 東京新聞朝刊)
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電車内で眠る次男。隣に座ったお兄さんの優しさをリレーしていきたい

奥山佳恵さんの子育て日記

お友達の家に謝罪に向かったら…

 鉛をのみこんだように胸が重くなった。学校からかかってきた電話で。ダウン症のある次男が遊びの中で、仲良しのお友達の眼鏡をふざけて曲げてしまったという。本当に気が、胸が、重くなった。

 配慮が必要な子どもが普通学級に通っている。ただそれだけでも「ご迷惑ではないか」という申し訳なさの中にいる。その上でかける「ご迷惑」は、親にとって苦しみが2乗になる。「障がいがある子と、せっかく仲良くしてもらっているのに」という、心の中での前置きがあってからの「ごめんなさい」だからだ。

 学童保育に迎えに行った私の顔は引きつっていた。次男を叱り、その足で2人で謝罪に向かう。胸の鉛が重たすぎて、偶然出会った知り合いの方に話を聞いてもらった。「『罪を憎んで人を憎まず』というけれど、私は今、この子が憎いです!」。情けなくて、悲しくて「せっかく、せっかく」という言葉が延々湧いてきた。

 次男と2人で頭を下げる。すると、お友達とお母さんはけろりと「大丈夫ですよ、遊びの中でしたことなので」と言ってくださった。「謝る側になることもあるから、お気持ち分かります」とまで。

 あ、私が思う「障がいがある子と、せっかく」という部分は、お友達親子の中には存在しないのだと気付いた。「クラスメートのお友達の悪ふざけ」と思ってくれていることが本当にありがたかった。「修理代は出させてください」とわび、次男を受け入れてくれていることに感謝した。

電車で出会ったお兄さんの優しさ

 また別の先日。電車のシートで眠った次男が、隣のお兄さんの左腕に完全にもたれかかってしまった。前に立っていた私が「ごめんなさい」と謝ると、お兄さんは優しい笑顔で首を横に振った。文庫本を右手だけで持っているので、ページをめくるのにご苦労されている。その度に「ごめんなさい」と冷や汗が出た。

 降りる時、起こした次男と改めて謝罪とお礼を伝えたら「こちらこそ、席を譲ればよかったのにごめんなさい。お気をつけて」とほほ笑んでくれました。振り返ると、左腕を上げて動かしていた。しびれていたに違いなかった。

 ご迷惑をかけることは申し訳ない。それでも受け入れてもらえると、本当に生きた心地がする。胸が軽くなる。私も、「迷惑をかけました」と人に謝られた時、「お互いさまですよ」といつでも言える自分でありたい。

奥山佳恵(おくやま・よしえ) 

俳優・タレント。2011年に生まれたダウン症の次男を育てる。長男はすでに成人。

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