〈奥山佳恵さんの子育て日記〉39・次男がいなくなって…優しさに出会った

(2023年3月17日付 東京新聞朝刊)
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次男発見の朗報を受けた直後の私。ビショぬれになったのは親だけでよかった!

奥山佳恵さんの子育て日記

カラオケに現れず 雨まで降ってきて…

 3月に入ったばかりの日曜日の出来事。「待ち人」がいつまでも現れないので仕方なく、一緒に歌うつもりだった曲をカラオケで最後に歌い始めた時だった。スマホが鳴り、私の代わりに電話に出てくれた妹の表情が変わった。

 電話は、ここに現れるはずの次男と自転車で遊びに行っていた夫から。内容は世界の色が変わるものだった。「美良生が行方不明になった」。慌てて自転車で飛び出した。

 家を無人にはしないように、たまたま遊びに来てくれていた妹に在宅してもらう。一体何があったのか。夫に聞くと、海沿いのサイクリングロードを走行中、分かれ道があったので「左右に分かれた先で合流しよう」と言って別れた。なのに、いつまでたっても次男は現れなかった。

 氏名くらいは言えるけれど、連絡先までは伝えられない。そんな子が消えた。警察にはすぐに届け出た。まもなく日暮れ。雨まで降ってきた。親とはぐれても、子どもはトンボみたいにひたすらまっすぐ進むのではないかと、私は次男が進んでいた江の島方向へ向かった。小さな岩陰がみんな、しゃがんだ次男に見える。雨宿りができそうな屋根の下を見かけるたび、「美良生ー!」と叫ぶ。カルガモのお母さんが子どもを呼ぶ鳴き声みたい、と思った。

散歩中の人が声がけ カフェで保護され

 見つかったのは捜索から1時間後。江の島とは反対方向の茅ケ崎で! はぐれた場所から4キロも先で1人でいたところを、ワンちゃんのお散歩中の方が不審に思って声をかけてくださり、近くのカフェで保護していただいたのでした。そのお声がけがなかったら、次男はもっと先まで行ってしまっていたと思う。親は雨でビショビショ、次男の服はカラカラ。その逆ではなくて、本当に良かった。

 後日、カフェに改めてお礼に行った。「私たちにも子どもがいますから」と、優しく対応してくださった。「『カラオケに行きたい』って言ってましたよ」という言葉には笑ってしまいましたが。自分から行方をくらましておいて、何を言ってるんだ!

 これは私たちの推測ですが、夫と別れた後に次男が反対方向へ向かったのは、いたずら心。夫を驚かそうとしたのでしょう。そして、どこまでも進んだ。コワい。こんな恐怖は二度と味わいたくないけれど、地域の中で子どもは育つということを、わが子を通じて体験することができました。世の中は、優しい!

奥山佳恵(おくやま・よしえ)

 俳優・タレント。2011年に生まれたダウン症の次男を育てる。長男はすでに成人。

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