〈坂本美雨さんの子育て日記〉4・笑顔のおすそわけ
初めての夏
娘の初めての夏が終わりました。夏生まれだけれど、生まれて1カ月はおうちの中だったので、初めて体験した夏。カラフルなビニールプールを膨らまし、スイカ柄のかわいい水着を着せてみたものの、プールは2回とも大泣きで終了…。初回は張ったばかりの水にいきなりつけてしまい、冷たすぎたらしい。朝のうちに水を張って、日光であたためてから入るものなのね…? まずは根っからのインドア派の両親が慣れなきゃいけないこと多し。娘よ、かぁちゃん来年はがんばるよ…!
今のところほとんど人見知りもなく、電車やバスの中では周辺の人々ににんまり笑って愛嬌(あいきょう)をふりまき、隙あらば手を伸ばして人に触ろうとしている娘。先日など、なにか視線を感じるなと思ったら、ガラス扉越しに隣の車両の人にまで手を振ってアピールしていて、インド人のお兄さんが遠くから笑って手を振り返してくれていた。
子どものこういった能力は本当にすごい。赤ちゃんにかまいたくて、娘を見つめて「ロックオン」しているおばちゃまはもちろん、きっと家では反抗期であろう男の子や、子ども好きには見えなかったサラリーマンまで照れたように笑ってくれる。あまりに娘が手を伸ばすものだから、苦笑して遠慮がちに指を触る。若いイケイケ(昭和な表現で、すいません…)のカップルまでも「めっちゃかわいくない?」と目配せしあう。
出会いと別れ
(決して自分の娘が特別だと言っているわけではなく)偏見も疑いもなくオープンハートな赤ちゃんが人の笑顔を引き出すのを見て、その存在の偉大さに感服する。そして自分も気づけば、他の赤ちゃんがいるとニヤニヤしながら「こ~んに~ちはっ」とにじり寄ってしまっている。
しかし、フレンドリーに接してくださる見ず知らずの人々も、数駅共に過ごせばお別れとなる。別れ際は、わりとあっさりしたものだ。もちろん知り合って10数分なのだから当然だ。
でも娘にしてみれば、いつも別れは突然来るのだろう。気になる人と笑い合い、通じ合ったのに、急にその人は目の前からいなくなってしまう。泣いたりはせずに、目で追っている。どういう気持ちなんだろうと、いつも彼女の表情を見つめながら想像する。また会える保証はない。濃密な出会いと別れを短時間で繰り返す娘を抱きながら私もまた、儚(はかな)いこんにちはとさようならを体験する。(ミュージシャン)