〈坂本美雨さんの子育て日記〉67・いとしき抜けた乳歯たち

(2023年2月24日付 東京新聞朝刊)

初めての琉球イノシシの炊き込みご飯に「うまいッ」の一言

娘の歯が見つからない!

 娘の2本目の歯がぐらぐらすること2週間以上。最後にはしぶとすぎるのを自ら引っこ抜き、さよならした。歯が抜けそうだと知ると必ず周りに「下の歯は屋根の上に、上の歯は軒下にね~!」と言われるが、あれは全国的な習わしなのだろうか。

 近頃は妖精さんにコインに変えてもらう風習のほうがポピュラーで、うちにも妖精さんがいらっしゃっている。抜けた歯を枕の下に入れておくと、眠ってからいつのまにか妖精が来て外国のコインに変えてくれるというもの。

 うちは、1本目はアメリカのコイン、今回はデンマーク。肝心の歯は妖精さんが持っていく場合と、置いて行く場合があるそうだが、今回は置いて行ってくれたのでありがたく頂戴した。消毒して、よしケースに大事にしまおう、と思った直後……ない。どこにもない! 捜す、捜す。ゴミ箱の中や、床に落ちて掃除機で吸ってしまったかと掃除機の中まで。でも、見つからなかった。ああなんてばかなんだ自分!とあきれてしまう。

翌日、出てきたものは…

 歯は胎児の時にはもう永久歯まで歯茎の中にそろっていて、おなかの中にいる時からずっと一緒にいたもの。あの歯でかんで、ここまで大きくなった…と思うとついつい感傷的になってしまう。

 離乳食の頃から柔らかいものが大嫌いでおかゆなんて即ぺーして体中に塗りたくられていたため、はえたての歯でいつもフランスパンをガジガジしていた。あらゆる硬いものを咀嚼(そしゃく)して、あの子を成長させてくれたかわいい歯よ…と考えたら泣けてきて、娘の前でさめざめと泣いていたら「ママ大丈夫だよ、また抜けるからね」とトントンしてくれた。そして「コインはもらったから大丈夫だよ」と言うので笑えてしまった。そうか彼女にとって主役はコイン。無くなった自分の一部、には特に執着はないのだった。

 一夜明け、必要があって猛烈に断捨離をしていたら、見覚えのない箱の中から小さなジップロックにはいった歯が出てきた。8~9本はあるだろうか。母が保管しいつか私に渡してくれたのだろうか。タイムリーすぎて一人で笑ってしまう。そして、少し困って箱を閉じた。大人になってからもらって困る物上位である。これから抜けていく娘の歯たちを、数十年後どういう気持ちで眺めるのだろうか。困って娘に渡し、また困られるのだろうか。やはり長い目で見ると、屋根の上に投げるのは良い習慣なのかもしれない。

坂本美雨(さかもと・みう)

 ミュージシャン。2015年生まれの長女を育てる。SNSでも娘との暮らしをつづる。

コメント

  • みうさん、どれも娘さんへの愛情あふれる投稿で心温まります。お子さんとの毎日を大切になさっているんだろうな、と感心しきりです。 さて、抜けた乳歯の行き先を私も常々悩んでいます。ジップロックに入れて
    のああ 女性 30代