「無学は貧困や無力につながる」 識字率最低のアフリカ・ニジェール 子どもの学ぶ場広げるユニセフの取り組み
義務教育に半数通えず 教員と官僚の能力も問題
ユニセフの「世界子供白書2017」によると、ニジェールの15~24歳の識字率は、男性が35%、女性が15%で世界最低だった。小学校6年、中学校4年で、6~16歳の計10年間が義務教育だが、学校に行くのは全体の5割。しかも、小学校卒業時の国語、算数の試験で学力基準を満たすのは、わずか8%だ。
原因の一端は教師の質の低さ。全国の教員7万2000人のうち8割は研修学校を出ていない契約教員で、17年の能力試験の際、100点満点で50点が取れたのは3分の1しかいなかった。
教育レベルの低さは政治にも影響している。ユニセフ・ニジェール事務所の渋谷朋子・教育担当チーフは「官僚のやる気があっても能力が低い。視点のずれや分析の甘さ、非効率があり、100万ドルで収まる事業が150万ドルかかるという状況。国民の大半が無学のため、国の無力化にもつながっている」と指摘する。
小学校にタブレット支給、学ぶ意欲を引き出す
ニジェールの義務教育の現状では、子どもがいったん学校に行かなくなってしまうと、学力が追いつかず、年齢の制限もあるため、復学は難しい。そこで、ユニセフは学校以外で再び学ぶチャンスを提供する代替的教育施設(CEA)の建設を推進。教育省や国際協力機構(JICA)と協力し、教材の提供、教員の養成などを行っている。
南部ザンデール州では施設30カ所を開設し、10~14歳の900人が学ぶ。約30人が参加するタヌートの教室にいたママン・ハサン君(14)は「5年生の時に学校をやめて後悔していた。この勉強の仕方はとても分かりやすい」と笑顔。将来の夢は溶接工という。
首都ニアメーでは、小学校にタブレット端末を支給し、子どもの学ぶ意欲を促そうとしている。トンディビヤ小では、6年生90人が30台を順番に使用し、数字のフランス語表記を当てるクイズなど、楽しんで学べるよう工夫。子どもたちは先生が質問すると「ムア・マダム(先生、私に)」と声を張り上げて指を鳴らし、われ先に答えようと猛アピールしていた。
児童婚で退学した少女「先生になりたい」と復学
ニジェールでは、人口爆発を助長し、教育の機会を奪っている児童婚も大きな問題だ。ユニセフは住民と協力し、ザンデール州内に約250の子ども保護委員会を設立。児童婚の健康リスクなどを啓発する劇を披露している。
ドゴ村では、15歳のザバディヤ・アブドゥルカリさんが結婚のため学校をやめさせられたが、村の委員会に相談し、母親と一緒に父親を説得。復学が決まった。
「勉強を続け学校を卒業して先生になりたい」と言うザバディヤさんを母サデ・ガンボさん(38)は味方した。子ども8人を産んだ母は「娘には教育の恩恵を受けてほしい。私は学校に行けなかった。今でも行きたい」と、陽気に笑った。
「国を動かす魂」…日本の私たちにできることは?
ニジェールを視察したユニセフ・アジア親善大使のアグネス・チャンさん(64)は「ユニセフの現地スタッフは、住民と痛みや誇りを共にし、必死にやっている。つらいこともいっぱい見ただろう」とねぎらった。
日本人にできることは何か。ユニセフ・ニジェール事務所のフェリシテ・チビンダ所長は言う。「発展の過程にあった国のビジョンを学びたい。それを今、ニジェールは最も必要としている。必ずしもお金ではなく、国を動かす魂のようなものを教えてほしい」