自転車で父と伴走5800キロ 不登校きっかけに12年 板橋の大学生・恩田さん「学校の外にも居場所はある」

(2019年8月30日付 東京新聞夕刊)
 不登校だった小学4年生から毎夏、父親と2人で日本各地を自転車で旅してきた女性がいる。東京都板橋区の大学3年生、恩田春音(はるね)さん(20)。介護施設職員の父・茂夫さん(54)と12年間で走り抜けた距離は、計約5800キロに及ぶ。旅先での出会いが後押ししてくれたといい、2人は確信する。「学校の外にだって、居場所を見つけられる」

初めての自転車旅行で砂浜を走る小学4年生当時の恩田春音さん(右)と父茂夫さん=石川県羽咋市で(茂夫さん提供)

いじめ被害の訴えを聞かない学校側に失望…小3で不登校に

 8月上旬、淡路島の灯台から2人で見た夕日は、とても美しかった。奈良から大阪、神戸などを巡る約300キロの旅路。人に勧められ、夕方の到着に急いで間に合わせた。何より、「お父さんが喜んでくれてうれしかった」。

 茂夫さんと2人暮らしの春音さんは小学3年のころ、同級生の暴言や暴力をきっかけに、2007年から学校に行かなくなった。何より、春音さんの訴えに耳を傾けようとしない学校側の姿勢に失望した。家でも泣きだしたり、通学途中で引き返したりすることもあった。

「感性と自信失わないで」父は能登半島一周の旅に誘った

 「このままでは春音の感性が壊れてしまう」と、危機感を募らせた茂夫さんは、不登校を責めることはなかった。代わりにテキストを買って自宅で毎日勉強を教えたり、リコーダーを2人で練習したり。公園では持久走などの体育もした。

 「学校へ行かないことで自信を失ってほしくない」と翌08年、茂夫さんは、春音さんを北陸の能登半島を一周する初めての自転車旅行に連れ出した。

出会いに満ちた7泊8日 春音さん「次はどこを走るの?」

 富山県のキャンプ場でなくした茂夫さんのメガネが届けられたり、道の駅で働く女性と手紙のやりとりを始めたりと、さまざまな経験をした7泊8日だった。茂夫さんは「もうこりごりかな」とも心配したが、翌年は春音さんが「次はどこを走るの」と聞いてきた。「涙が出るほどうれしかった」

 東京から鉄道で出発地に移動し、北は北海道から南は鹿児島県まで全国各地を巡った。茂夫さんが高校生のときに走破したのと同じコース約900キロを走ったことも。35度を超える炎天下も、大雨の中で転んだこともあった。

2人で続けた自転車旅行を振り返る恩田さん親子=東京都板橋区で(戸上航一撮影)

中学で復学 「いじめる側のこと知りたい」心理学を勉強中

 春音さんは、小学校は通わないまま卒業したが、気持ちは落ち着き、「他の人とも関わりたい」と私立中学に入学、欠席せず通学した。大学ではいじめる側のことも含めて知ろうと心理学を学び、部活やインターンなどで忙しい毎日を送っている。

 「父が自転車旅行を始めてくれたことに、感謝している」と春音さん。そして、各地での出会いが、旅を「達成させてくれた」と振り返り、こう強調する。「心が病んでしまうなら、学校へ行かない方がいい。大人から『行け』と言われても無視していいんだよ」

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年8月30日