自殺、不登校…いじめ「重大事態」最多に 2018年度調査、27%増の602件

(2019年10月18日付 東京新聞朝刊)
 いじめを訴える子どもが自殺したり、長期の不登校になったりするいじめの「重大事態」が、2018年度は全国の小中高校と特別支援学校で前年度比27%増の602件発生していたことが、文部科学省が17日発表した児童生徒の行動に関する調査で分かった。増加は3年連続で、「いじめ防止対策推進法」が施行された13年度以降では最多。解決や発見の遅れで深刻化するケースが増えている状況が浮かび上がった。

認知件数も最多 茨城、千葉、東京は全国平均より多く

 重大事態の増加について、文科省児童生徒課は「憂慮している」とする。ただ、具体的状況を把握しているのは一部で、要因の分析は今後の課題とした。

 いじめ全体の認知件数も過去最多で、前年度比3割増の54万3933件。学校種別では小学校が最多で1000人当たり66件と、35人学級で2件程度見つかった計算だ。中学校は29.8件、全国平均は40.9件。

 都道府県のばらつきが大きく、1000人当たりの認知件数が最多は宮崎県で101.3件。首都圏では茨城、千葉両県と東京都が全国平均より多く、栃木、群馬、埼玉、神奈川各県は20件台だった。

小中の不登校も最多16万人 暴力行為は7万件超え

 いじめ以外は、小中学校の不登校が前年度より約2万人増えて16万4528人で過去最多。暴力行為も、現行調査方法になった06年度以降で初めて7万件を超えた。小学校の増加が顕著になっている。

 同法は「重大事態」を、いじめにより(1)生命、心身や財産に重大な被害が生じた疑いがある場合(2)相当の期間(30日程度)学校を欠席している場合-と定義する。起きた場合は学校から教育委員会を通じて首長に報告し、被害児童、生徒や保護者らの意向を聞いて第三者委員会を設置して調査するよう求めている。

〈解説〉教員・学校・教委に「発覚はマイナス評価」の意識 早期発見の壁に

 文部科学省は、いじめの認知件数が増加したことを「積極的な取り組みの結果」と肯定的に評価した。いじめを隠したり、軽く見たりしがちな学校や教育委員会に対し、考え方を変えてほしいとのメッセージが込められ、裏を返せばいじめの解決へ前向きに取り組むことが難しい雰囲気がいまだに残っていることを示す。

 積極的な取り組みがされなかった典型の一つは、中学時代にいじめで長期の不登校になった埼玉県川口市の元男子生徒(17)のケースで、市を相手取り損害賠償を求めて裁判が続く。いじめに悩み、自傷行為に及んだ男子生徒に対し、学校や市教委はなかなかいじめの重大事態と認めなかった。

 いじめ防止対策推進法は、本人が苦痛に感じればいじめとして対応しなければならないと定める。しかし、男子生徒の母親は市教委の担当者から、同法ではなく「社会通念上のいじめに当たるかどうかで判断する」と説明されたことがある。同市は裁判でもいじめの定義は広すぎ、法として欠陥があると主張した。

 母親は「いじめかそうでないかに、すごくこだわる。大事なのは早期発見、対応なのに」と違和感を語る。母親のもとには、ほかのいじめ被害者の保護者から相談が寄せられているという。

 2015年に茨城県取手市で市立中学女子生徒が自殺した事例では、市教委は第三者委員会の調査前に「重大事態に該当しない」と議決し、後に撤回した。

 文科省児童生徒課の大浜健志課長は、教員の間にいじめが発覚するとマイナス評価されるとの考えが残っているとし、「いじめを見つけ、子どもから相談を受けることはむしろ評価が高いと伝えている」と話す。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年10月18日