タイマー聞こえない、手話で調理の手が止まる… 葛飾ろう学校、ハンディ越えて「食の甲子園」初Vめざす
「切り終わった?」「味付けは?」手話でコンタクト
「野菜切り終わった?」「味付けはどう?」。10月中旬の同校実習室で、コック帽をかぶった生徒3人が、手話で会話しながら手際良く調理を進めていた。材料を刻み、フライパンで炒める音が室内に淡々と響く。
3人は高等部専攻科の食物コースで学ぶ2年の山川真優さん(20)、松丸さくらさん(20)、笹岡龍斗さん(20)。山川さんと松丸さんは昨年の準優勝メンバーでもあり、「コミュニケーションを密にして、ミスせず作りたい。頑張った結果が優勝につながれば」と意欲を燃やす。
ろう学校唯一の食物コース 卒業生は一流ホテルでも活躍
食物コースは2005年に開設された。2年間の課程を終えると調理師免許がとれる専攻科で、聴覚障害がある子どもが通う特別支援学校では全国唯一。人気レストランの元料理長らが講師を務め、卒業生はホテルニューオータニをはじめ、社員食堂や病院食堂などで活躍している。
食の甲子園は2016年の第1回から参加してきた。担当教諭の柏倉克哉さん(39)は「健常者と同じ大会に出ることは社会に羽ばたく準備になる」と狙いを話す。
大会では、手話の度に調理の手が止まるため時間のロスは避けられない。過去には、タイマーの音に気づかずお菓子を焦がしたり、油が跳ねる音が聞こえないためローストポークを焼きすぎたりもした。
各地区代表の9校と対決 勝負メニューは「玉子丼」
実行委員会によると、聴覚障害のある子どもが通う特別支援学校から出場した例は他になく、担当者は「優勝チームとの差はほとんどなかった」と実力を認める。
今年も関東予選を突破し、本選で各地区代表の9校と競う。葛飾産小松菜や島根産エリンギを具材にした玉子丼に、野菜たっぷりの汁物、タピオカ粉を使ったデザートの3点で勝負をかける。
大手ホテルに就職が決まっている松丸さんは「人前に出るのが苦手だったが、甲子園の取り組みを通して度胸がついた。お客さんを喜ばせられる調理師になりたい」と意気込んだ。
一般向けレストラン「かつろうキッチン」を毎月開店
同校では毎月、生徒が調理するレストラン「かつろうキッチン」も開いている。大会に先立ち、11月2日午前10時半からシーフードカレー450食を400円で販売。生徒たちの腕前を体験できる。