もう読んだ?「怖い絵本」の新定番 人気は”思い切り怖がれる本” 大人向け怪談の名手も書き手に
暗がりが減った現代…本が「怖い体験の場」に
一つ目小僧や鬼が次々に出てきて、恐ろしい形相で怖がらせる「こわめっこしましょ」(絵本館、2018年)や、見開きページからはみ出さんばかりのリアルな妖怪の絵に、おどろおどろしい説明が添えられた「大接近! 妖怪図鑑」(あかね書房、2012年)。東京都港区の子どもの本専門店「クレヨンハウス」の怖い本コーナーには、「ねないこ だれだ」(福音館書店、1969年)や「おしいれのぼうけん」(童心社、1974年)といった長年読み継がれている作品とともに、2010年代以降に出版された新顔が並ぶ。
売り場担当の馬場里菜さん(33)は「今は、子どもたちを思い切り怖がらせる絵本が人気です」と話す。廊下や便所など暗がりが多く、暮らしの中で怖い体験ができた昔と異なり、安全優先で、どこでも明かりが照らす現代。「怖い体験をする場としての役割を本が担っている」と背景を分析する。
子どもに人気の、あえて怖いまま終わる作品
子ども向けの怖い本の作り手は「どんなに怖くても、最後はほっとできる」物語を心がけているが、最近はあえて怖いまま終わる作品が増えている。その代表例が、2011年スタートの岩崎書店の「怪談えほんシリーズ」だ。作者には、宮部みゆきさんや京極夏彦さんら、大人向けの怪談の名手がそろう。
シリーズ11作目の最新作、有栖川有栖さん作の「おろしてください」(岩崎書店、2020年)は、道に迷った男の子が知らずにお化けの列車に乗り込んでしまう物語。現実世界に戻れそうな流れに読み手がほっとした直後、予想外の結末を迎える。
当初は「怖すぎて子どもに読ませられない」の声
岩崎書店編集部の堀内日出登巳(ひでとし)さん(47)は「怖いというネガティブな感情を味わわせまいと、大人が子どもから怖いものを遠ざけたり、作り手がブレーキをかけたりする傾向が気になった」と企画のねらいを説明。ただ、当初は大人からの反応は厳しく、「子どもに読ませられない」「どうしてこんな怖い本を置くのか」といった声が書店や図書館などに寄せられたという。
しかし、子どもに人気が出たことで大人の評価も一変。今では新作が待ち望まれるシリーズに育った。「『この後どうなったんだろう』と想像力を膨らませる余地があるのが面白さ。疑似体験として怖い経験を積み、乗り越えることが、強い心を養うことにつながる」と話す。
「怖い物見たさ」は世界共通 海外の作品も
海外の作品の中にも人気シリーズが生まれている。こわがりでちょっとうっかり者のウサギが登場するスウェーデンの「おとうとうさぎ」シリーズは、同国の子どもたちによる絵本の人気投票で第1作が1位に選ばれた。最新作の第6作「おばけでんしゃだ おとうとうさぎ!」(クレヨンハウス、2020年)は、呪いのせいで100年間走り続けているおばけ電車に乗り込んでしまう話。馬場さんは「子どもの『怖い物見たさ』は世界共通。北欧のうっそうとした森を舞台におばけや魔女が出てきて怖いけれど、隅々まで細かく描き込まれていて、ワクワクしながら読めるはず」と話す。
「怖いよ~」と甘えられるのも楽しみの一つ
馬場さんによると、怖い本は保護者や園の先生など、子どもが安心できる大人が読んであげるとよいといい、「子どもは『怖いよ~』と甘えられることもうれしい。ぎゅうっと抱き締めて、コミュニケーションの一つとして怖い思いをすることを楽しんで」と助言する。
子ども本専門店の担当者が選ぶおすすめリストはこちら!
2010年代以降に出版されたおすすめの絵本(選・クレヨンハウス)
①『こわめっこしましょ』作:tupera tupera(絵本館、2018年)
笑うと負けの「にらめっこ」の逆で、泣いたら負け。ラストが秀逸。
②『大接近! 妖怪図鑑』作:軽部武宏(あかね書房、2012年)
観音開きのページでは、80センチ大の唐傘小僧や土蜘蛛(つちぐも)が登場。
③『おろしてください』作:有栖川有栖 絵:市川友章(岩崎書店、2020年)
「怪談えほんシリーズ」最新作。京極夏彦さん作『いるのいないの』(同、2012年)も人気。
④『オニのきもだめし』作:岡田よしたか(小学館、2017年)
帰り道を急ぐ赤鬼2匹の前に、ひとだまやガイコツが次々に現れて…。ユーモラスな一冊
⑤『おばけでんしゃだ おとうとうさぎ!』作:ヨンナ・ビョルンシェーナ 訳:ヘレンハルメ美穂(クレヨンハウス、2020年)
スウェーデンの子どもたちが第1作を「好きな絵本」1位に選んだシリーズの6作目
小学生向けのおすすめの本(選・クレヨンハウス)
①『妖怪一家九十九(つくも)さん 妖怪一家の夏まつり』作:富安陽子 絵:山村浩二(理論社、2013年)
3、4年生からおすすめ。近所の団地に住む妖怪一家のお話。妖怪ってどんな生活をしているんだろう?と知りたい子に。
②『がっこうのおばけずかん』作:斉藤洋 絵:宮本えつよし(講談社、2014年)
1、2年生から読める。怖いけれど、ユーモラスな内容。
③『ぼくが消えないうちに』作:A.F.ハロルド 絵:エミリー・グラヴェット 訳:こだまともこ(ポプラ社、2016年)
自分にしか見えない架空の友達の話。本当に怖い話が好きな子向け。大人もぜひ。
④『ホートン・ミア館の怖い話』作:クリス・プリーストリー 訳:西田佳子(理論社、2012年)
作者の視点から怖い経験が書かれているので、話に入り込みやすい。本格的なゾクゾク感が味わえる。