知的障害児が「できない」のは思い込みだった ソフトボール指導教諭が経験を本に「教育の本質は同じ」
【関連記事】障害があっても創作意欲は育つ 丸ごと肯定するアトリエ
しっかり向き合い、話を聞くのが大事
「生徒たちにしっかり向き合って、話を聞くことが一番大事で基本。教育の本質は健常者も障害者も同じ」と久保田さんは語る。
幼いころから野球が好きで高校、大学とプレーを続けた。教え子と甲子園を目指そうと教員になったが、採用されたのは養護学校(現在の特別支援学校)。知的障害の子たちを担当することになった。赴任校にはソフトボールのクラブがあり、練習を見たがキャッチボールも満足に続かない。「俺が教えるところじゃない」と、仕事に身が入らない日々を送った。
指導に工夫 健常者チームにも勝った
異動を心待ちにしていた3年目に、クラブの顧問を任された。生徒の一人が投げ方を教えてほしいと声を掛けてきた。面倒だと思ったが、ボールの握り方や腕の振り方を教えると、今までの倍くらい遠くまで投げられた。生徒は大喜び。教えれば教えるほど飛距離は伸び、障害者だからできないという思い込みが打ち砕かれた。
それからは指導に熱が入った。当初は基本的なルールがわからない生徒もいた。生徒と一緒に走塁したり、守備がうまくいかない生徒には後ろに張り付いて打球が来た時に掛け声をかけたりしてタイミングを教え、理解しやすい指導方法を探した。
猛練習を重ね、翌年に都内の特別支援学校の大会で優勝した。そのまま大会5連覇を達成し、他の勤務校を合わせると14回優勝。健常者チームに勝つこともできた。
夢は高校野球への出場 「できるはず」
久保田さんは社会人野球でも指導者として尽力。以前から親交があった元中日ドラゴンズの谷沢健一さんに誘われ、谷沢さんが創立した千葉県柏市を拠点にするクラブチーム「YBC柏」で、2005年からコーチや監督を歴任する教員との二足のわらじをはいた。大学生に就職先を案内した上でチームに勧誘するなど、社会人が野球を続けやすい環境作りに励み、昨年、監督を退任した。
本の出版は3冊目。今回は、生徒や保護者とのやりとりや、社会人野球での選手とのかかわりを書いた。現在の勤務校に野球部はないが、今後の目標は高校野球への出場だ。「社会人を教えて、野球人としてのスキルが高まった。運動能力が高い生徒はたくさんいる。今は複数の学校でつくる連合チームもあるので、選手1人からでも参加できるはずだ」と話している。