高校の「居場所カフェ」とは? 悩みを話しやすい”予防型支援”が中退を防ぐ

成田はな (2021年2月2日付 東京新聞朝刊)
 高校内で生徒が気軽にくつろげる場所「居場所カフェ」が各地で生まれている。NPO法人など民間団体が運営し、生徒は教員以外の大人と話せる。大人側は生徒が抱える悩みに気付きやすくなり、中退を防ぐ役割を期待される。ただ、効果はすぐには見えにくく、運営費の確保は容易ではない。運営側は「長期的な運営には行政の予算が必要」と訴える。 

「こどもNPO」のスタッフ(左)とゲームを楽しむ生徒たち=名古屋市天白区の若宮商業高で

教員が気付かない発見も

 1月上旬、名古屋市立若宮商業高校。授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、空き教室に次々と生徒が集まってきた。入室時に検温と消毒。漫画やボードゲーム、おしゃべりなど自由に過ごす。2019年度から月1、2回開く「若宮カフェ」。木田信子教諭(42)らが「悩みがある生徒を見落としていないか」と、名古屋市内の子育て支援のNPO法人「こどもNPO」に運営を依頼した。

 当初は昼食時間に35分だったがコロナ禍を受け飲食を伴わない授業後となり、2時間に延びた。生徒に渡す菓子とお茶は持ち帰りに。計19回開かれ、600人前後の全校生徒のうち毎回約30人前後の生徒が参加。NPOのスタッフ4、5人が対応する。「スタッフには何でも話しやすく、生徒同士は学年が違っても自然と仲良くなれる」と2年の節句田華(せつくだはな)さん(17)。

 教員以外の大人が生徒に関わると、教員が気付かない発見もある。こどもNPOの山田恭平さん(31)は「生徒の話を通じて家庭での様子が分かる」。気になることは本人の同意を得て教員に伝える。

課題は運営費の確保

 課題は運営費。人件費と菓子・お茶代が1回約5万円必要で、年間では約60万円に上る。同校PTA会費から充てるのは年5万円。1年目は名古屋市教委の応募制の予算が通り、残額を賄えたが、制度の期限は1年。2年目はNPO側が民間団体の助成金を獲得した。山田さんは「助成金があっても足りず、自分たちも費用を負担している」と話す。

 静岡市のNPO法人「しずおか共育ネット」は2017年に静岡県立高で居場所カフェを始め、最長2年間の市教委予算で運営した。それ以降は個人や地元企業の寄付、社会福祉法人の助成金を利用している。

 ある自治体の担当者は「行政には、高校生向けの相談窓口など他の支援もある。居場所カフェだけを優先するのは難しい」と打ち明ける。

 一方、毎年、行政が予算をカバーするのは大阪府。中退率が全国ワースト水準だったことを踏まえ、全国で初めて2012年に居場所カフェを開いた。近年は年1103万円の府予算で運営し、現在は府立高の14カ所に広がる。「生徒のさまざまな課題が中退につながるのでは、という問題意識の高まりが予算につながっている」と府の担当者。居場所カフェを開く府立高の中退率は減少傾向という。

見落とされがちな「卒業後の支援」も必要

 居場所カフェは生徒の課題を事前に発見する「予防型支援」。目先の結果である高校中退率の推移は全国的に減少傾向で、すぐに効果が見えにくいのが課題だ。

 各地で居場所カフェの普及に携わるNPO法人「パノラマ」(横浜市)代表理事の石井正宏さん(51)は「効果は中退率の推移で判断されがちだが、卒業後の支援まで長い目で見るべきだ」と強調する。

 昨年は居場所カフェの卒業生5人からパノラマの職員に助けを求める連絡があり、今も相談に乗っている。居場所カフェで出会わなければ、支援をするきっかけは少ない。「公的な相談窓口の利用者の平均年齢は20代後半。高校卒業後から20代前半には支援が届いておらず、予防型の支援が必要だ」と訴える。

 パノラマが2014年に横浜市の公立高校で始めた居場所カフェ「ぴっかりカフェ」は現在、寄付と民間の助成金で運営するが、神奈川県の助成金を獲得した時期もあった。石井さんは「生徒への早い支援は早い社会復帰につながるので行政の予算が必要だ」と主張しつつも、「居場所カフェの効果は明確な数値では示しにくい。どう効果を見せるか模索している」と話す。

居場所カフェとは

 主に高校内で生徒が飲食しながらNPOのスタッフや地域のボランティアと気軽に交流できる場。学校近くの施設などで開く場合も。パノラマによると、学校の人間関係、進学や就職の進路、家庭内の虐待などの相談があり、本人の同意があれば副校長やスクールソーシャルワーカーなどに連絡し、公的な相談機関につなげる。2012年に大阪で始まり、北海道、宮城、千葉など少なくとも60カ所ある。