受験で不合格…親はどう接する? 子どもの自己肯定感と回復力を促す声かけとは

吉田瑠里 (2022年1月11日付 東京新聞朝刊)

 受験シーズン本番。合格をつかむ人がいれば、思い通りの結果が出ない人もいるだろう。直後は親子とも合否が全てになりがちだが、大事なのは経験を次に生かしていくことだ。親が気をつけたいことについて、青山学院大教授で小児精神科医の古荘純一さんに聞いた。

10代はただでさえ自信を失う時期

 「自己肯定感は、10歳ごろから中高生にかけてだんだんと下がっていく」。古荘さんは、ただでさえ自信を失いがちな時期と受験時期が重なっている点を指摘する。

 古荘さんらは全国の小中高生約9000人を対象に、直近1週間で自分のことをどう感じていたかを調べ、2003、2007年の2回に分けて論文にまとめた。「自信があった」「いろいろなことができる感じがした」などの4項目について「全くない」から「いつもそう」の5段階で答えてもらい、自己肯定感が高いほど得点が高くなるよう数値化したのが下のグラフだ。

努力を認める、でも”先回り”しない

 子どもの自己肯定感を保つには、不合格だったとしても「頑張ったね。立派だったね」などと親が努力をきちんと認めることが大事。自分の価値や存在を肯定できれば「今回は力が及ばなかったが、能力はある」と信じ、挑戦を続けることにつながるからだ。

 専門家から見ると、受験の失敗より、対人関係のつまずきや大事な人やものの喪失などの方がショックは大きい。加えて「受験で失敗しても、子どもは通常、自分で乗り越える力を持っている」と言う。

 もちろん直後は落ち込むだろう。だからといって、親が先回りして次の目標を決めて励ましたり、気分転換をさせたりするのは、回復する力にブレーキをかけかねない。立ち直るスピードや方法は一人一人違うからだ。特に、自我が確立する中学生以上の場合は、親が何とかしようと思わない方がいい。

親が落ち込むと、子は自分を責める

 親が落ち込んでいると、子どもが自分を責めてしまうことがある。まずは、親が事実を受け止めることが必要。「やりたいことを我慢して頑張ったのにね」などと過去を振り返る言葉もこらえよう。結果は変わらないし、子どもも過去に目が向いてしまう。

 「子どもの話を聴き、様子を観察することを優先してほしい」と古荘さんは願う。子どもが自分から話しやすい環境であれば、回復は早い。受験を機にギスギスしてしまった家庭も少なくないだろうが、その場合は元の親子関係に戻すよう心がけたい。

 入学時期の4月になってもふさぎ込んでいたり、眠れない、食欲がない…といった不調を訴えたりする場合は、助けが必要なサインだ。かかりつけの小児科医やスクールカウンセラーに相談するよう勧めている。

当事者の経験談「おいしい物を」「前もって伝えた『結果よりプロセス』」

 ショックを受けた子どもをどう受けとめるか。当事者の経験談からもヒントを得られそうだ。

 岐阜市の女性(54)は、高校を不合格になって泣きじゃくる子に「掛ける言葉がなかった」という。そこで「おいしい物を食べていれば人生なんとかなる」と言ってお気に入りの店へ。子どもは落ち着いた様子で、好物のオムライスを食べ、気持ちを切り替えた。「食べることは生きる基本。次に進むきっかけに」

 東京都港区の女性(42)は「大事なことは、前もって伝えておくといい」と助言する。私立中を希望する娘に対し、入試を翌春に控えた秋のうちから「行きたい学校を見つけ、諦めずに頑張ったプロセスは、結果よりすごいこと」と言いきかせた。「偏差値の高い学校に行くことであなたの価値が上がるわけではない。その逆ももちろんない」とも。結局、娘は喜んで第2志望の中学に進んだという。