石井桃子さん生誕115年 さいたま市の図書館で記念企画 「くまのプーさん」「ピーターラビットのおはなし」…今も愛される翻訳作品
子どもの魂を揺さぶる言葉がわかる人
現在の浦和区、旧中山道沿いの金物店に生まれた石井さんは、生家や母の実家があった三室村(現在の同市緑区三室)の豊かな自然が創作の源であったと、講演やエッセイで繰り返し触れている。翻訳作品の仕事が最も多いが、「ノンちゃん雲に乗る」など児童文学を執筆し、「岩波少年文庫」創刊による日本での児童文学普及、家庭文庫や読み聞かせ運動などで子どもの読書環境の発展に尽力したことでも知られている。
「ごあいさつしたら『日本の創作は読まなくてもよろしいですからね』と言われたのを、まだ覚えています。英米のものを原書でお読みなさい、と」と振り返るのは、「ガンバとカワウソの冒険」などの著作がある斎藤惇夫さん(81)。福音館書店(東京)の編集者だったころ、石井さん翻訳の「ピーターラビット」シリーズを担当した。
斎藤さんは、石井さんが関わった書籍が古びず今も愛される理由に、そもそも石井さんが何度読んでも新鮮と感じる名作を選んでいることや、美しく正確な日本語の使い手だったことを挙げる。英米の優れた児童文学を読み込んだ石井さんが「子どもに届き、魂を揺さぶる言葉が本能的にわかる人だった」からこそだと話す。
斎藤さんによると、英語を和訳すると文章量が1.5倍ほど増えるが、石井さんは「ピーターラビット」シリーズで行数やページ数をぴたりと合わせる「達人」だった。膨大な仕事の中では「たのしい川べ」(ケネス・グレーアム著)の訳が「絶品」といい、「石井さんの文学・文体をひもとくと、人生は生きるに値する場所だと思えてくるし、日常のすばらしさを示してくれる」と称賛する。
「児童書の中でも人気、断トツでは」
さいたま市立中央図書館(浦和区東高砂町)によると、石井さん関連の本で、昨年市内の図書館で貸し出しが最も多かったのは「ちいさなうさこちゃん」(ディック・ブルーナ著)で1629回。次いで「ちいさいおうち」(バージニア・リー・バートン著)の1534回だった。
同館の北風真吾さんは「市ゆかりで所蔵数も多いが、幅広い世代に人気がある。(他の児童書と比べても)断トツではないか」と話す。自分が読んで楽しんだ父母から子へ、世代を超えて読み継がれているという。
市内では「石井桃子の会」が読み聞かせの会に資料を提供するなどして功績を語り継いでいるが、会員は高齢化し、若い人の参加も募っている。同会長で石井さんの親族でもある星野和央さん(88)=さきたま出版会会長=は「地道な活動だが桃子の『本は心の友達』という考え方を、いろいろな人の心の中に染み込ませることが大切」と話した。
31日までミニ展示、Webでクイズも
さいたま市立中央図書館と北浦和図書館では生誕115年を記念してミニ展示を31日まで実施。また、図書館のホームページでは「クイズで知る石井桃子」(17題、大人向け)、「しってる?いしいももこさん」(10題、子ども向け)を公開している。