国内初の累計700万部!世代を超えて愛される絵本「いない いない ばあ」 童心社の社長は元埼玉県庁職員

飯田樹与 (2020年12月7日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる
写真

発行部数700万部突破のロングセラー「いない いない ばあ」を手に、「宝物を預からせてもらった」と話す田中さん=いずれも東京都文京区の童心社で

「宝物を預からせてもらった」

 いない、いない、ばあ。くまちゃんが、ほらね、いない、いない……ばあ。

 両手で顔を覆った茶色の子グマ。「……」に続けてページをめくると、ぱっちりお目々の子グマが「ばあ」と顔をのぞかせた。

 ゼロ歳児から楽しめる赤ちゃん絵本の先駆けとして知られる「いない いない ばあ」。1967年に出版された同書は先月、国内の絵本で初めて累計出版部数700万部を突破した。田中正美さん(68)は、世代を超えて愛される同書を世に出した児童書専門出版社「童心社」の社長。「宝物を預からせてもらった。これを機に赤ちゃん絵本に注目してもらえたら」と顔をほころばせる。

絵本の思い出が転職を後押し

 15年前に童心社に入るまで、出版とは無縁だった。大学卒業後に埼玉県庁に入庁。違う世界を見たいと呉服店に転職した。さらに移った会計事務所では、取締役という責任ある立場でやりがいを持って働いていた。だからこそ、尊敬する税理士から能力を買われて転職を打診されても、いったんは企業名を聞かずに断った。しかし、それが童心社と聞いて心が揺らいだ。

 自身も子ども3人を育てた。今では47歳になる長男らとの思い出は、膝の上に抱いて絵本を読み語ったこと。その時の作品の中には「いない いない ばあ」など童心社の絵本もたくさんあった。「子どもからもらった幸せな時間は、絵本が作ってくれた」。新しい世界に飛び込んだ。

自ら紙芝居 「幸せですよ」

 童心社の前身は紙芝居の出版社。今も年間に書籍約40点に加え、新作の紙芝居約30点も出している。田中さんをはじめ社員は全員が紙芝居を演じる講座を受けており、数年前からは社内の紙芝居専用ホールで隔月の「かみしばいおはなし会」を開いている。

写真

親子らでにぎわう「かみしばいおはなし会」(童心社提供)

 新型コロナウイルス感染拡大で現在は休止中だが、毎回近所の親子やお年寄りが集まる人気イベント。自身も演台に立ち、観客との掛け合いや会場の一体感が醍醐味という。会社の近所を歩いていると、子どもから「田中さ~ん」と呼び掛けられたり、「紙芝居やりに行こうよ」とねだられたり。「幸せですよ」と目尻を下げる。

 出版不況の中にあって、児童書全般は比較的好調というが、その中で絵本は苦戦しているという。それでも「絵本は子どもの感性を豊かにし、親子の関係づくりにも欠かせない」と確信している。読者に成長してからも本に親しんでもらい、人生を豊かにしてもらうためにも「幼い時に良い本に出合ってほしい」と願い、赤ちゃん絵本の出版に力を入れる。

田中正美(たなか・まさみ)

 1952年8月、東京都杉並区生まれ。慶応義塾大経済学部卒業後、埼玉県庁に入庁。約15年間にわたり企業局、春日部保健所、議会事務局、パスポートセンターで勤務した後、呉服店に転職。1993年には会計事務所に移り、2005年に童心社に入社。2013年に代表取締役社長に就任した。草加市在住。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年12月7日

すくすくボイス

この記事の感想をお聞かせください

編集チームがチェックの上で公開します。内容によっては非公開としたり、一部を削除したり、明らかな誤字等を修正させていただくことがあります。
投稿内容は、東京すくすくや東京新聞など、中日新聞社の運営・発行する媒体で掲載させていただく場合があります。

あなたへのおすすめ

PageTopへ