フィリピンで採点、自治体間格差… 都立高入試の英語スピーキングテスト 教員たちが公平性に疑問
海外の採点者が音声だけで?
学習指導要領は英語四技能として「聞く」「読む」「書く」「話す」を定めている。都教委の担当者は「生徒だけではなく、学校や市区町村にも結果が通知されるので、全体を見た授業改善が可能となる」とテストの狙いを話す。2019年から3回実施した「プレテスト」では大きな問題はなかったという。
しかし、現場の英語教員からは不安や懸念が出る。20代女性教員は「対策講座を開く塾へ行ける生徒が有利になる。経済状況や居住地で格差が生じかねない」と批判する。50代女性教員は「採点会場はフィリピンだが、海外の採点者が顔も知らない生徒を音声だけで採点できるのか」と疑念を示す。
管理職からも「スピーキング教育に対する力の入れ方は自治体間の差が大きく、公平な評価ができるだろうか」(校長)という声が上がる。
都教委は「学習指導要領の範囲内で出題するので、授業と家庭学習で十分対応できる」とする。採点者の人数など詳細は非公開とした上で、非英語話者に英語を教えるための学問領域「TESOL(テソル)」を習得するなど、全員が一定水準以上の技量を持っているとして「公平な採点ができる態勢を整えている」と強調した。
生徒に負担 志望校にも影響
テスト成績は都立高校入試にも利用される。A~Fの6ランクに分かれ、学力検査の得点(700点満点)と調査書点(300点満点)のうち、調査書点に最大20点が加えられる。1点差で合否が分かれることもある入試では小さいとは言えない数字だ。
受験した生徒に成績が通知されるのは来年1月中旬だ。都立高校入試は毎年2月下旬が通例で、学校現場では年末までに志望校を絞り込むのが一般的。進路指導担当経験もある50代女性教員は「結果次第では志望校を変更する必要がある」と生徒の心理的負担を重くする可能性に言及した。
公立高校入試にスピーキングテストを活用した先例は、岩手県にある。2004年度から県立高校入試で対面方式で実施したが、入試が2日間にわたるなど受験生の負担が大きいことを理由に、2006年度を最後に取りやめた。岩手県教委は「復活させる予定はない」としている。
導入反対を訴える市民団体「入試改革を考える会」は5月17日、都教委に対し、採点方法の妥当性などについて15項目の公開質問状を出した。代表の大内裕和・武蔵大教授(教育社会学)は「英語4技能の中では話す能力の評価が最も難しく、入試になじまない」と指摘。「中学生段階で読み書きの基礎がしっかりしていれば、その後に会話を学んでも十分に身に付く」と話す。
2022年5月17日に東京都教育庁に提出した公開質問状の回答が本日届きました。
抽象的な内容のみで質問への具体的な回答にはなっていない残念なものです。https://t.co/Fmftxgp1dz— 入試改革を考える会 (@anti_kaikaku) June 1, 2022
都教委による英語スピーキングテストの実施方法
受験生に専用タブレット端末を配布し、画面と音声による指示に従って問題に解答した音声を録音、フィリピンで採点する。病気やけがで欠席したり、テスト実施時に都内公立中学校に在籍していなかったりした生徒が都立高校入試を受験する場合は、英語学力検査の成績をもとに点数を算出する。運営はベネッセコーポレーションが受託した。
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