【ニュースがわかるAtoZ】フリースクール 学校外の学び場は今

(2016年9月26日付 東京新聞朝刊)
 学校外の学びの場として、主に不登校の子どもたちを受け入れているフリースクール。法的な位置付けを求める声を受けた法案は、前国会で継続審議になった。公教育以外の学びの場を豊かにしていく一歩を踏み出すことはできるのか、今後の国会の動きが注目されている。

現状は? 主に不登校の受け皿

 国内には現在、フリースクールなど学校外の居場所や学び場が300~400カ所あるとみられる。文部科学省が昨年初めて行った調査では、通っている小中学生は約4200人。高校生を含めるとさらに人数は増える。

 国内でフリースクールができ始めたのは30年ほど前からだ。不登校の子どもたちの数が増え続ける中、子どもたちが安心して過ごせる居場所が求められたことが背景にある。関係者の運動により1992年には、フリースクールへの出席が学校の出席日数として認められるように。不登校が12万人前後と高止まりしている2000年代にできた場所も多い。

 運営に決まったスタイルがあるわけではなく、開設者の理念のもと、利用する子どもたちや保護者らの願いも受け入れながら、多様な形で展開されている。多くは、平日の朝から夕方まで開き、子どもたちは教科の学習だけでなく、音楽やスポーツ、料理などさまざまな活動に取り組んだり、自分たちでイベントを企画したりしている。

 子どもたちはフリースクールにたどり着くまでにさまざまな悩みや苦しみに直面し、心身が疲れ果てていることも多い。フリースクール多摩川(東京都府中市)の理事長吉川尚さんは、「まずは安心でき、人とのかかわりを回復することが大事」と話す。じっくりかかわる中で「勉強したい」とか「進路の相談に乗って」など前向きな変化が出てくる子もいる。「子どもが来たいと思った時に、受け入れられるところ」として存在意義があるという。

 しかし、法的な位置付けがないため、国や自治体などの補助もほとんどなく、運営は主に親が払う会費や寄付などによってまかなわれている。このため、会費の月額平均は約3万3000円と保護者の負担は重い。スタッフの給与も低く、小規模な施設は安定的な運営が難しいのが現状だ。

支援法案って?「学校外の学び」に高い壁

 こうした状況を変えていきたいというフリースクール関係者らは7、8年前から学校外の学びの場を法律に位置付けるよう求めてきた。超党派の国会議員連盟で議論され、今年5月には自民、公明、民進、おおさか維新が「教育機会確保法案」として衆院に提出。だが、共産、社民は加わらず、民進が「全会一致」を求めて成立しなかった。

 提出までの間にも、法案は曲折をたどった。関係者はもともと、フリースクールや自宅などでの多様な学びが認められ、選ぶことができる新たな制度を求めていた。議連も2015年にまとめた原案では、保護者が作った個別学習計画を教育委員会が認めることで家庭学習も義務教育とみなすなど、学校外の学びを教育制度の中に位置付けた。実現すれば戦後教育の大転換になるはずだった。

 しかし与党から「学校に行かないことを安易に認める」などの批判が強まり、昨年の法案提出は見送られた。教委による個別学習計画の認定についても、関係者から「子どもたちを追い込むことになる」と批判が出た。16年に国会に出された修正案には、義務教育の一形態とする規定は盛り込まれず、不登校の児童生徒への対策が前面に打ち出される内容となった。

 関係者の受け止めは分かれる。30年以上前にフリースクールをつくり、法成立を目指してきたNPO法人東京シューレ理事長の奥地圭子さんは、「当初案と比べると『選べる』ようにはなっていないが、学校以外の学びの重要性や休息の必要性を認めていることが重要だ。学校が絶対化されている仕組みを変えるための一歩だ」と話す。

 一方、カウンセラーの内田良子さんは、「フリースクールを支援する目的だったはずが、不登校特例校をつくるなど、不登校を問題視する内容になっている」と法案を批判。「社会の誤解や偏見を助長し、今も学校を休めずに苦しんでいる子どもたちをさらに追い詰めることになる」と指摘する。

課題は? 多様な教育 どう確保

 「秋の国会で取り組みたい」。議連で法案づくりの中心となり、その後文科相を務めた馳浩衆院議員は8月の大臣退任会見で、あらためて成立への意欲を示した。法案は今後、臨時国会での取り扱いが焦点となる。

 フリースクールを巡っては国の取り組みもここ数年、前向きになっている。

 政府の「教育再生実行会議」が14年7月、フリースクールやインターナショナルスクールなど、法的に学校とは認められていない教育施設の位置付けの検討を提言。これを受け、文科省は、フリースクールに通う子どもの学びをどう支援するかについて検討する会議を開いている。

 教育制度の枠の中に位置付けていく議論に、現場はジレンマも抱く。フリースクール多摩川の吉川さんは「システム的に認められたいという思いの一方で、フリースクール本来の良さがなくなるのなら、社会的な認知度がなくてもいいのかなとも思う」と打ち明ける。

 吉川さんの元には、行政が不登校対策としてやっている適応指導教室も「学校と同じで嫌だ」となじめなかった子どもたちも通う。行政の関与が強まれば、そういう子どもたちの受け皿ではなくなってしまう懸念があるという。

 フリースクールのスタッフとしての経験もある愛知文教大専任講師の竹中烈(たけし)さん(教育社会学)は法案を巡る議論は、不登校に限らず、すべての子どもたちのために必要と考える。「多様な教育の機会は、どの子も自分に合った学ぶ場があることを目指すこと。学校が第一という前提で、その他の子どもたちをどうするか、という発想ではなく、みんなにかかわる問題として、どんな社会であるべきか、幅広い議論が必要だ」

コメント

  • 私の息子は、自らの意思で、毎日フリースクールに通っています。それでも、日本の社会にとっては、「不登校」になります。 既存の学校に通っていた頃の彼は、授業中に先生に怒鳴られたり、同じ班の子から苦手なこ
     
  • 不登校など、相談できる場所はあるようでないものです。公共の電話相談などは、たらい回しです。公共の相談できる施設も、結局親次第、ということで、助けにはなりません。学校を動かすには議員を連れていかなければ