センバツVの元球児が問う「男女どちらが生きやすい?」 家庭科教諭の野原さん、手作り授業でジェンダー観に揺さぶり
「体の性」の固定観念に気づかせる
担当する2年の必修授業「家庭基礎」で、毎年初回に必ず意識調査を行う。「男女どちらが生きやすい?」との質問には「女子」が多く、「レディースデーがある」「周りが助けてくれるから」などの理由が挙がる。「男子がいいという生徒の理由は『給料が高いから』。法律的には違うのですが」と笑う。
ジェンダーバイアスを取り上げる回は、男女の赤ちゃんに選ぶおもちゃの種類や、泣いているときにかける言葉を生徒たちに書かせる。おもちゃは女の子には「ままごと」、男の子は「車」。男の子にかける言葉は「男だったら泣くな」など。「体の性」が男か女かによって固定観念があることに気づかせる狙いだ。
法律の「こうあるべき」が作る意識
家族に関わる法律として民法も取り上げる。「男は18歳、女は16歳にならなければ婚姻できない(731条)」「女は前婚の解消または取り消しの日から6カ月経過しなければ再婚できない(733条)」など、2010年時点の条文を見せ、これらが「個人の尊厳」と「男女の平等」に反していないかを考えさせる。あえて改正前の条文を検討させるのは、「法律は変えられる」と実感してもらいたいからだ。
10年前の授業では、結婚できる年齢に法的に男女差があっても「良い」という生徒が半数だったが、今はゼロ。「実は法律が『家族やジェンダーはこうあるべきだ』という意識を作っている。多くの生徒が遠くて関係ないと思っている法律が、実は深く関係していると感じてくれたら」
2年の苅谷大斗さん(17)は授業を通じ、小学校から続けている野球で「男だから休むな」などと声をかけられてきたことに「男だから、はおかしい」と気づいたという。体育祭の男女別種目なども「誰かが生きづらさを感じてないかなとひっかかるようになった」。
横浜国大で家庭科の魅力に目覚めて
野原教諭は高校時代、野球の名門・東海大相模(相模原市)で春の選抜高校野球大会優勝を経験。小学校教諭を目指して進学した横浜国大で家庭科の魅力に目覚めた。母親が専業主婦の家庭で育ち、「ジェンダーバイアスの塊だった」という自分の価値観が学ぶほどに壊れるのが面白かった。大学院でも家庭科を学んで高校教諭に。授業で教科書はほとんど使わず、オリジナルのプリントと、とりためたテレビのドキュメンタリーなどで組み立てる。
生徒にとって、良くも悪くも人生の基盤は家庭で、自分の家庭が「普通」と思いがちだ。だからこそ家庭科の授業が大事だと強調する。「自分の経験とは異なる子育てや家族生活のあり方があると知ったり、話し合ったりする機会はなかなかない。家庭という『私的な領域』を教育で学ぶことはとても意義がある」