小児科病棟から遠隔操作ロボットで授業へ動物園へ 入院中の子どもが社会とつながり、明日を夢見るために
大画面にゾウが!病棟に響く歓声
4月上旬、千葉市動物公園。先端にタブレット端末がついた遠隔操作ロボット「ダブルスリー」が、するすると動き、アジアゾウに近づいていく。
操作しているのは千葉大医学部付属病院(千葉市)の小児科に入院中の子どもたち。パソコンでロボットを動かし、カメラがとらえた映像を大画面のモニターに映し出す。ゾウが近づくと病棟に大歓声が響いた。
参加したのは幼児から中学生までの男女7人。中学2年の男子(13)は「とてもいい経験になった」と笑顔を見せた。
博物館に水族館 買い物もできる
ロボットは認定NPO法人ミルフィーユ小児がんフロンティアーズ(同)の所有。がんの子どもを持つ父母が中心となって設立した。
前理事長井上富美子さん(77)は次男が2歳の時に小児がん(神経芽腫)と診断され、同病院に入院した経験がある。国際小児がん学会で遠隔操作ロボットを知り、2020年に導入。「病棟の外を見せてあげたい」と、この病院を含む千葉県内3施設に入院中の子どもを対象に、博物館や水族館の見学、買い物などの催しを開いてきた。
買い物では、ロボットを病院から操作し、売り場の欲しい商品を画面越しに選択。支援者がかごに入れて購入する。アンパンマンのチョコレートを買った未就学の女児は「これで点滴を頑張る」と話した。
笑顔が、治療する側の力にもなる
中学3年の男子は昨年から今年3月の卒業まで、週3回朝のホームルームにロボットを使って出席した。「友達とつながりたいし、受験の話も聞きたい。音楽会の歌の練習ではクラスの一員として参加している気持ちになった」と話したという。
井上さんは「子どもたちは命さえ助かればと治療に臨み、明日を夢見る機会を失う。学校や社会と切り離され、競争心も育たず、将来を考えられない」と支援の必要性を話す。入院中は家族や医師ら限られた人としか会話しないが、院外の人と話をして「ありがとう」などと伝えることで社会性を身につけられるという。現理事長の中島弥生さん(60)も「ロボットを動かす時だけでも病気を忘れて子どもらしい時間を取り戻してほしい」と話す。
千葉大医学部付属病院小児科の日野もえ子医師(48)は「子どもたちは普段見せない笑顔を見せてくれる。こんな姿が、治療する側の力にもなる」と効果を話す。
広がる取り組み「自信がついた」
ほかにも、一般財団法人ニューメディア開発協会(東京)は20年から、入院中の子どもたちが遠隔操作ロボットを活用して授業や行事に参加する取り組みを本格的に始めた。これまでに約100人が体験。「運動会の応援など、できないと思い込んでいたことができた」「自分に自信がついた」などと話す子が多く、父母からは「前向きに生きる力を得た」などの声が寄せられているという。
ニューメディア開発協会のプロジェクトリーダー林充宏さん(63)は「子どものペースを大切に支援し、わくわくする気持ちを楽しんでもらう。手軽にロボットを使ってできることを広く知ってほしい」と話している。