希少難病の子どもが専門医につながるサイトができました 医療機関・学会・患者会の情報を整理 悩んだ親のノウハウ生かす

海老名徳馬 (2022年11月11日付 東京新聞朝刊)
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子どもの希少難病の医療機関を探せるサイト「指定難病・小児難病における診療医療機関・精査機関」のスマホ版トップページ。URLは https://angelsmile.scuel.me/

 子どもの希少難病の早期診断につなげようと、検査や診療ができる医療機関を探せるウェブサイトが開設された。第1弾として46の疾患の情報を公開しており、今後さらに多くの疾患の情報を載せていくという。サイト作りに取り組む関係者らは「情報を増やせば、孤立しがちな希少難病の患者や家族の助けになる。彼らを取り巻く状況をもっと多くの人に知ってもらいたい」と話す。

難病は約7000種 病名確定に時間が…

 サイト「指定難病・小児難病における診療医療機関・精査機関」( https://angelsmile.scuel.me/ )は、一般財団法人健やか親子支援協会(東京都)が作成した。

 健やか親子支援協会は希少難病の子どもや家族のサポートを目的に、2015年に設立。新生児の先天性代謝異常などを見つけるための検査の運営などにも携わってきた中で、専務理事の川口耕一さん(65)は「われわれも聞いたことがない病気の問い合わせも多い」と気付いたという。

 川口さんによると、難病は分かっているだけでも約7000種といわれるが、「希少な病気で困っている人たちに、救いの手が差し伸べられていない。小児科医にあまり知られていない病気も多く、検査できる機関や専門医が限られている」。

 希少な病気では、詳しい医師が国内に数人という場合も。情報が少ないため適切な検査を受けられず、病名の確定までに数年、長いと数十年かかることもあるという。川口さんらは「検査や診療機関の情報をもっと表に出すことで早く病名が分かれば、救える命がまだまだある」と、昨年10月からサイト作りに乗り出した。

図解 子どもの希少難病の医療機関を探せるサイトの利用イメージ

難病が疑われたらすぐ連絡できるように

 一方、希少難病の患児の親は、時間の制約や心理的な負担などのため就労が難しい場合が多い。健やか親子支援協会は、患児ファミリーの就労支援にも取り組んでおり、サイト作りの最初に必要な情報の下調べの仕事を複数の患者会に打診。国指定の難病「神経線維腫症I型(レックリングハウゼン病)」の患者会「To smile(トゥースマイル)」の会員20人が疾患1つにつき5000円で請け負い、インターネットなどで病気の学会や患者会の活動状況、専門家の所在などを下調べする業務を担った。

 集めた情報は、健やか親子支援協会が医療機関や医師などに確認し、許可を取った上でサイトに掲載する仕組み。今年6月には、まず「原発性免疫不全症候群」の45疾患と、レックリングハウゼン病の情報を載せた。

 サイトでは、疾患ごとに診療機関と検査を受けられる機関に分けて一覧にまとめ、学会や患者会のホームページへのリンクなども盛り込んだ。かかりつけ医が難病を疑い、特殊な検査や専門的な知識を持つ医師の助言などが必要な場合に、迅速に連絡が取れるようにするためだ。難病の症例などについてまとめたサイトは他にもあるが、川口さんは「検査できる機関や専門医がどこにいるかといった足りていない部分の情報を提供したい」と説明する。

治療法や新薬の開発に役立てる構想も 

 ネット上の情報は古いままの場合も多く、かつては専門医が在籍していても、今は不在で対応できないこともある。年間で3割ほどという医師の異動に対応するために医療情報のデータベースと連携し、検査の可否や研究状況の変動に対応しやすくしている。

 本年度はおよそ100疾患の掲載を目指す。「まずは指定難病の338種類、さらにはより知られていない病気の情報も集めていきたい」と川口さん。希少な病気は患者が少ないため、治療法や薬剤の開発が進みにくい傾向があり、製薬会社と連携して治験の提供や新薬の開発に役立てる構想もあるという。

「情報不足に苦しむ親のため、自分たちの経験を生かしたい」 協力した患者会の思い

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レックリングハウゼン病の患者会「To smile」代表の大河原和泉さん

 健やか親子支援協会が進めるサイト作りでは、レックリングハウゼン病の患者会「To smile」の会員が、ネット上の情報を集める役割を担った。子どもとともに病気に向き合って懸命に医療情報を探し、患者同士でつながってきた経験も生かし、情報不足で同じように苦しむ人が減ることを願う。

難病の娘が生きやすい世の中にしたい

 To smileの活動の原点には、代表の大河原和泉さん(43)=埼玉県=の体験がある。6児の母親である大河原さんは2017年、末娘の紬乃(ゆの)ちゃん(5つ)が生後3カ月でレックリングハウゼン病と診断された。

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大河原さんの末娘の紬乃ちゃん。生後3カ月でレックリングハウゼン病と診断された(大河原さん提供)

 この病では、全身の肌に色素斑(しみ)や腫瘍が多数現れる。当時、医師には病気についてインターネットで検索しないようにと言われたが、「親なら絶対にしますよね」。検索すると、体に多くの腫瘍ができた患者の写真が多数表示され、「閲覧注意」などと面白おかしく興味をひくような記述も目立ったという。

 大河原さんはショックを受けたものの、すぐに「悩むのは娘で、そうすると一番悩んでいてはいけないのが私。この子が生きやすい世の中にしたい」と考えを改めたという。病名を検索した時にショッキングな画像が出てくる状況を変えようと、紬乃ちゃんに目立つ服を着せた写真に「レックリングハウゼン病」などのハッシュタグをつけて連日インターネット上に投稿。3カ月ほどで「最初に出てくる画像の大半が娘の写真に」なったという。

 多くの親が不安を感じるのは情報が少ないからだと考え、レックリングハウゼン病学会に研究機関などの情報提供を依頼。考えに共鳴した当時の学会理事長に「理事長補佐」という肩書を与えられ、ブログなどで娘の病気や活動について発信するうちに、同じ病気の子を持つ親からの連絡が次々に来るようになり、2019年に患者会を設立した。

 同年には専門医と患者会のメンバーが交流するイベントを名古屋や東京などで開催。今は全国で400人近い会員が、地域ごとに情報交換をするなどの活動を続け、今後は研究費の助成なども視野に入れるという。

「めちゃくちゃ検索をした」経験が力に

 健やか親子支援協会がサイト作りの仕事を募ると、活発な取り組みやつながりがあるTo smileの会員からすぐに多くの応募があった。「難病の子を持つ親は、病気が分かった時にめちゃくちゃ検索をした経験があり、情報を集めるノウハウがある」と大河原さん。就労が難しい会員にとって「5疾患を調べれば2万5000円という金額も大きい。社会的に孤立しがちでも、自分も役に立っていると感じられ、一石二鳥」とも。疾患ごとに専門家や学会などのキーワードを組み合わせて検索し、情報を収集。健やか親子支援協会専務理事の川口耕一さんは「医療用語に抵抗がなく、どんどん情報を集めてくれるすごい力がある」と感謝した。

 収集に携わった下地彩子さん(33)も、長女(7つ)が1歳半の時に、レックリングハウゼン病の診察が受けられる医療機関を自力で探した。「その時の経験がそのまま役に立った」と語る一方で、さまざまな病気の情報量が「私がレックリングハウゼン病を調べた頃に似ていて少ない」と感じたという。医療の進歩や患者会の活動もあり、大河原さんによるとレックリングハウゼン病についての情報量は、この5、6年でぐっと増えた。同じく作業に関わった古張真由美さん(35)も「病気について分からないことが一番怖い。調べたときに何かにつながるサイトができるなら、多くの人が助かる」と期待した。

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  • 金輪 健 says:

    NF1患者本人です。たいへん前向きな動画配信、うれしく思います。自身の病気を知って、この病気が社会的な認知と、必要な方への医療助成がほしいと思いました。助成は前進していますが、認知はまだまだ。To Smileの活動はすばらしいと思います。

    私は「あせび会」という希少難病者の会に入っております。NF1の方は200人強らしい。ただし個々とのつながりはできていない会です。この会をご存じですか。活動スタイルの交流、学び合いができればいいですね。いや、あせび会が学ばせていただくところでしょうか。

    私個人は、職も得て、理解ある伴侶にも恵まれ、無事にくらしております。

    金輪 健 男性 70代以上

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