入院中の子を支え、人生を変えた犬「ベイリー」 日本初のファシリティドッグ 功績が動画に  

米田怜央 (2020年12月13日付 東京新聞朝刊)
子育て世代がつながる

 入院中の子どもを元気づける「ファシリティドッグ」の国内第1号として神奈川、静岡両県の病院で活躍したゴールデンレトリバー「ベイリー」。10月に12年の生涯を終えた今、かつての患者やともに歩んだパートナーらは感謝と新たな決意を胸に抱く。「ベイリーがいたから」。寄せられたメッセージや思い出の写真を組み合わせた動画が13日に公開された。

リハビリや採血に付き添い、ICUにも

 「勇気をもらいました」「お空から見守ってね」

 ベイリーが6年常勤した神奈川県立こども医療センター(横浜市南区)の廊下の壁に11月、元患者やその家族らからのメッセージが数百枚並んだ。

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神奈川県立こども医療センターの廊下の壁に貼り出されたベイリーへのメッセージや写真

 ベイリーは2007年生まれの雄。2010~2018年、神奈川県立こども医療センターと静岡県立こども病院(静岡市葵区)で、リハビリに取り組む子どもや採血する子どもに付き添い、不安を和らげてきた。集中治療室(ICU)にも出入りした。これまでに支えた子どもは2万2500人を超える。

ベイリーに支えられ、看護師になった

 東京都武蔵野市の杉本真子さん(27)もその1人。中学卒業前に白血病を発症し、静岡県立こども病院に入院した。同級生と連絡を取る気になれず、部屋のカーテンを閉め切って電気を消した。そんな毎日を、ベイリーが変えてくれた。

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2018年10月に開かれたベイリーの引退セレモニーで、ベイリーと触れ合う杉本真子さん=横浜市南区で(杉本真子さん提供)

 「ベイリーが隣にいてくれるだけで治療に前向きになれた」。話すきっかけが生まれ、励まし合う仲間ができた。入退院を繰り返しながら症状がなくなり、今、夢だった看護師として働く。「病院なんて見たくもなかったけれど、人のためになりたいと思うようになった。救われたことを忘れず、私も人を助けたい」

治療の怖さを軽減し、緩和医療に効果

 ファシリティドッグは、重い病気の患者らの治療に加わるため、トレーニングを受けた犬。ベイリーはその知名度も高めた。

 「入る病棟は限られ、カルテを見ることもできなかった」。ファシリティドッグを派遣するNPO法人「シャイン・オン・キッズ」(東京都)職員で、パートナー役の「ハンドラー」として10年間をともにした森田優子さん(39)は活動を始めた当時を振り返る。医療行為と理解してもらえず、感染症への懸念からも敬遠されたという。

 しかし、採血でパニックになった子どもが、ベイリーのおかげで落ち着きを取り戻すといった実績を積み重ねるうちに信頼を得るように。神奈川県立こども医療センターの町田治郎総長は「治療の怖さを軽減させてくれ、緩和医療に効果がある」と指摘する。

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ハンドラーの森田優子さんとベイリーの後任のアニー=いずれも11月、横浜市南区で

10年で3頭に 後任のアニーも活躍中

 10年たち、シャイン・オン・キッズが派遣するファシリティドッグは3頭に。「ベイリーがたくさんの人生を変えてくれたのを見てきた」と森田さん。後任のアニーと、今日も子どものそばにいる。

 動画はシャイン・オン・キッズのYouTubeチャンネルで公開中。問い合わせはシャイン・オン・キッズが平日午前9時~午後6時に電話=03(6202)7262=で受け付けている。

国内でまだ5頭のみ 年間1000万円の費用が壁に

 NPO法人シャイン・オン・キッズなどによると、ファシリティドッグの先進地アメリカでは、最大規模の育成団体が昨年に66頭を輩出した一方、日本国内では5頭ほどが同様の活動をするのみという。

 ファシリティドッグには、ハンドラーの人件費、えさ代などで年間1000万円の費用がかかる。法人への寄付では賄いきれず、神奈川県立こども医療センターと静岡県立こども病院は、半分程度を負担している。同法人の担当者は「導入の問い合わせは増えたが、費用負担をためらう病院がまだ多い」と話す。

 アメリカでの利用状況に詳しい帝京科学大の山本真理子講師(介在動物学)は「日本では犬を医療に活用する発想が少ない。データを示すのが難しい分野でもあり、現場の人間が体感したメリットを広めることが大事」と話している。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年12月13日

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