離婚後の共同親権、法制審が導入前提の議論へ 協議離婚で「真摯に合意」した場合を想定 「対等な話し合いは困難。力の弱い親が不利」との懸念も

(2023年4月20日付 東京新聞朝刊)

「父母の関係が対等とは限らない」と語る離婚経験者の女性=東京都内で

 法制審議会(法相の諮問機関)の家族法制部会は18日、離婚後も父母がともに子の親権を持つ「共同親権」の導入を前提に議論に入ることを確認した。共同親権には、ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待から逃れにくくなるとの反対論が根強いことから、話し合いによる協議離婚で父母が「真摯(しんし)に合意」した場合を想定。対立時の対応は議論を続ける。父母が協力して子育てしやすくなるとの期待がある一方、離婚時に配偶者とのトラブルを経験した人らからは懸念の声も上がる。 

「DVから逃げられるようにしてほしい」

 「共同親権を導入するというニュースを見て、がくぜんとした」。離婚後、2人の子を育てている40代女性は19日、動揺を隠せない様子で語った。

 元夫は、ささいなことで激高し、ギャンブルに1日で数百万円を使い込むこともあった。女性が別居を提案すると連日、深夜まで「おかしいのはおまえだ」「俺ぐらい稼いでから言え」と罵倒された。恐怖を覚え、元夫の外出中に脱出。裁判を経て数年前に離婚が成立した。「対等に話し合える関係ではなかった。離婚に応じる条件として、相手から共同親権への合意を迫られる人も出てくるのでは」と心配する。

 幼少期に父親の暴力を受けていたという関東在住の別の40代女性も不安視する。心身に危険を感じても、なかなか配偶者との関係を絶てない人が出るのではないかと思うからだ。「母が私や姉を連れて家を出る決断をしてくれたから、私は生きている。逃げるべき人が逃げられるようにしてほしい」と願う。

「裁判所が合意を取り消せる制度が必要」

 離婚後の共同親権は2021年、当時の上川陽子法相が法制審に諮問し、有識者らによる家族法制部会が導入を巡る議論を始めた。意見は推進論と反対論に二分され、昨年11月にまとめた中間試案では、共同親権を導入する案と、現行の単独親権のみを維持する案を併記。12月~今年2月に実施したパブリックコメント(意見公募)にも賛否両論が寄せられ、法務省が時期尚早として今国会への民法改正案提出を見送った経緯がある。

 法制審関係者によると、非公開で行われた18日の部会では、複数の委員が「父母が真摯に合意した場合にも単独親権しか認めないのは、合理的ではない」と主張し、導入に向けた議論に移行することが決まった。ただ「何をもって合意なのか」「暴力や虐待の問題が軽視されている」などの反対意見も複数あった。今後は制度設計が議題になる見通しだが、意見集約は難航する可能性もある。

 DV問題に詳しい斉藤秀樹弁護士は「関係が破綻した父母の多くは、対等かつ公平な話し合いが困難だ。双方の合意形成を前提とした今回の制度案は、より力の弱い親が不利になりやすい」と懸念する。導入する場合は、裁判所が父母の真意を慎重に確認したり、必要に応じて合意を取り消したりできる制度が必要だと指摘した。

離婚後の親権 

 民法は「子の利益のため」を大前提に、父母が協議離婚する場合は「協議で、その一方を親権者と定めなければならない」と単独親権を規定。共同親権の導入について、反対派の懸念に対し、推進派は別居親が子どもに無関心になったり、父母の対立で疎遠になったりするのを防ぐ効果もあると主張する。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年4月20日