離婚後の「共同親権」導入で家族のあり方はどうなる? 来年にも民法改正案 割れる賛否
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【どう変わる】単独か共同か家裁判断も
親権とは、子の世話や教育、どこで暮らすかの決定、財産の管理などを行う親の権利義務のこと。子が使う携帯電話の契約や、予防接種や手術の同意、アルバイトをさせてもいいかの判断も含む。婚姻中の父母はともに親権者だが、離婚後はどちらか一方に決める必要がある。法相の諮問機関である法制審議会の部会では、この規定を変え、両親を親権者にすることを認める方向で検討が進む。
法務省は8月29日の部会に、民法改正案の方向性をまとめた「たたき台」を提示。離婚する父母が従来の単独親権に加え、共同親権も選べることを新たに明記した。両者が対立して裁判に発展するなど、親権のあり方が話し合いで決まらない場合は家庭裁判所が子の利益や家族の関係を考えて決定する。
たたき台によると、双方が親権者となった場合は原則、共同で親権を行使する。子の身の回りの世話や教育といった日常の行為に加え、どちらかが子に危害を加えるなどの差し迫った事情がある時は一方のみの行使も認める。特定の事柄に関し、父母の折り合いがつかなければ、どちらかの請求により、家裁が一方の親による行使を認める。
子の利益に必要な時は、家裁が親権者を変えることも可能とする。一方の親が暴力への恐怖などから、不本意な合意をすることも考えられるため、共同親権を決める過程が適正でなかったと認めた時も、変更できるようにする。親権を持つ親の一方を、子の日ごろの世話を主に担う「監護者」に定めることも可能とし、監護者の判断はもう一方の親より優先される。
法制審部会は今後、たたき台を基に議論し、改正民法の要綱案を取りまとめる。法務省は来年の通常国会への法案提出を目指す。法務省関係者は「家裁が単独か共同かを決める際は、子への悪影響や、父母間に暴力の恐れがないかなどの観点で判断することになる」と見通す。
【議論の経緯】DVや虐待が…残る不安
離婚後の共同親権を巡る議論が本格化するきっかけは2011年。離婚後の養育費の分担や面会交流のあり方を決めるように定めた民法改正時、付帯決議に共同親権の可能性を含めた検討が盛り込まれた。性別に関係なく子育てをするべきだという機運や、離婚で親権を失い、子と疎遠になった親らが養育への関与を望む声が背景にあった。
その後も自民党を中心とする超党派議員連盟が、離婚後の親子の面会交流を義務化する「親子断絶防止法案」の提出を検討するなど、子と別居する親の権利を強める制度を主張。内外の声を受け、上川陽子法相(当時)は2021年、離婚後の家族制度の見直しを法制審に諮問した。
識者や実務家でつくる法制審の部会は同年以降、共同親権を新たな選択肢として認めるかどうかを議論。「離別後も協力して子育てする父母が増えれば、子の利益になる」など前向きな意見が出た一方、ひとり親家庭の支援者らは、対立に子が巻き込まれたり、ドメスティックバイオレンス(DV)や児童虐待が続いたりする恐れがあるとし慎重な立場をとった。
こうした経緯から、部会は昨年11月、現行制度を変えないことも選択肢に残した中間試案をまとめ、郵送やメールで国民の意見を聴くパブリックコメントを実施。2カ月間に約8000件が寄せられた。法務省によると、団体からは共同親権の導入に賛成する意見が多く、個人では反対が賛成の約2倍あった。
世論が割れる中、部会は単独親権のみの現行制度を維持するという選択肢を事実上なくし、協議離婚の父母が単独か共同かを選べるようにする方向性を確認。焦点だった、対立関係にある父母も、家裁の決定で共同親権にできると方向づけた。「一方の親が単独親権を望んでいても、共同の方が子の利益になることもある」という意見が目立ったが、「どちらかが拒否しても共同になる可能性があるなんて、事実上の強制になりうる」との反発もあった。
【割れる世論】弁護士や医師にも慎重論
共同親権の是非を巡り激しい議論が続く背景には、関係が悪化して離婚した父母が、子の成人まで協力して子育てができるかどうかについて、世論が割れていることがある。
法務省が公表したパブコメの概要によると、共同親権に賛成する意見として「離婚後も父母の熟慮の上で、子についての事項が決定されることが望ましい」「両親の離婚という子自身と関係ない理由で、子に責任を負う者が減少するのは子の利益を害する」などの声があった。
慎重・反対意見では「父母間で合意形成の土壌がない場合、子と別居する親の強引な介入や主張を許すことになる」「養育費との交換条件として、不本意ながら共同親権を選ぶことも考えられ、離婚後も支配関係が続く」などの懸念があった。
政治家や子どもに関わる団体も発信を強める。超党派の「共同養育支援議員連盟」(会長=自民・柴山昌彦元文部科学相)は2月、共同親権を導入する民法改正案の早期提出を斎藤健法相(当時)に要望。「現状の単独親権制度の下で、DVや虐待がないにもかかわらず、愛する親から引き離され、親子の関係を断絶される子が少なからず存在するのが現実だ」と訴えた。
一方、家事事件に詳しい弁護士の有志は8月、導入を前提に議論を進めないよう法務省に要望。弁護士310人が要望の趣旨に賛同した。日本小児科学会など医療関係の4団体も今月、斎藤法相と面会し、子への医療で早急な対応が必要な時は、主に子を世話する一方の親の同意だけでも医療行為を認める仕組みとするように要請。共同親権の理念は理解するとしつつ、両親の同意を得なければいけない仕組みになると、適切な医療ができなかったり、遅れたりする恐れがあると指摘した。