弁護士310人が共同親権に待った 「導入ありきの議論はやめて」法務省に申し入れ 「子どもを危険にさらす」「パブコメ公開を」

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法務省への申し入れ後に記者会見する弁護士のグループ。21日午前、東京都内で

 離婚した後も、父親と母親の両方が子どもの親権を持ち続ける「共同親権」の導入を巡る議論が、政府の法制審議会(法務大臣の諮問機関)の部会で大詰めを迎えています。今月下旬にも、法務省が法案のイメージを部会に示すとされる中で、弁護士のグループ「共同親権の問題について正しく知ってもらいたい弁護士の会」が21日、導入を前提に議論を進めないように法務省に申し入れました。賛同したのは、全国の弁護士310人。なぜ今、導入に慎重な意見が広がっているのでしょうか。

夫婦間の”合意”…強制された結果では 

 グループは次の4点を申し入れました。

(1)父母が共同親権で合意したとしても、DVや虐待、両者の葛藤が激しいケースが紛れ込む危険がある。

(2)父母が合意せず、家庭裁判所が共同親権を決めるケースでは、子どもを危険にさらすリスクが高まる。

(3)議論の前に、パブリックコメント(意見公募)で集まった意見を公開し、議論に反映してほしい。

(4)家庭裁判所の審判・調停により、子どもと別居親の「面会交流」が強制されてきた実態について、調査・分析してほしい。

 21日に東京都内で記者会見した呼びかけ人の斉藤秀樹弁護士は「共同親権の『合意』が積極的で真摯なものか、夫婦間の力関係によっては事実上、強制された結果ではないかという懸念について、法制審では十分に議論が尽くされていない」と指摘しました。

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「話し合いができない、関係が修復できない父母が、裁判所が命じたからといって協力して子育てできるのか」と問いかける斉藤秀樹弁護士

 同じく呼びかけ人の太田啓子弁護士は「父母の関係が良ければ子育てで協力し合えるが、関係が良かったら普通は離婚しない」と語り、離婚後の協力関係を前提にした法律には無理があると訴えました。このほか、子と同居する親の転居・転職の自由が事実上縛られたり、時間やお金のないひとり親が、元配偶者の求めに応じて裁判に対応しなければならなかったりするおそれも指摘しました。

面会交流の機会に虐待が行われてきた

 (3)に登場する「パブリックコメント」とは、昨年12月から今年2月にかけて法務省が国民に離婚後の家族制度に関する意見を募り、約8000通が寄せられたもの。法制審委員らにしか閲覧が認められていないため、現状では、国民の意見が議論に反映されているかが分からないとして、パブコメの公開を求めました。

 (4)に関し、弁護士グループは「面会交流の機会に虐待が行われてきたことを私たちは現場で経験している」と指摘。家裁が面会交流を推進してきたことが、子どもの利益になったのかをよく検証せず、共同親権の導入に進んでいくのは危ういと警鐘を鳴らしました。

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離婚後共同親権の導入を検討する法制審部会に異論を唱える弁護士たち

 法務省関係者によると、離婚後の共同親権が導入されると、父母で合意した時や、裁判所が決定した場合に共同親権が適用される見通しです。子の進路や医療、転居などの重要なことは父母の合意に基づいて決める仕組みになり、合意できなければ、いずれかの親の訴えに基づき、家裁が決めるという制度が有力です。

表 法務省が法制審部会に示した共同親権導入のイメージ

当事者の不安「穏やかに暮らせない」

 会見には、共同親権の導入に不安を抱く当事者もオンラインで参加しました。

◇40歳の女性の発言要旨

 夫のモラルハラスメントを理由に協議離婚しました。ランチの店すら私や子どもの意見が通らず、(ささいな理由で)無視や不機嫌が続きました。

 息子には発達障害があります。元夫は(通常学級に在籍して学びながら、一部は別室で指導を受ける)通級や通院に反対し、小学校にあがってもおねしょする息子を毎日叱りました。殴るなどのDVがなくても、穏やかに暮らせない家庭・関係があることを知ってほしいです。

 離婚後の共同親権が法律になったら、また息子には怒られる日々が待っています。やっと家に穏やかな空気が流れるようになったので、この暮らしを守りたいです。

表 法務省が想定する民法改正に向けたスケジュール

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なるほど!

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グッときた

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もやもや...

19

もっと
知りたい

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