家族だからって、深追いしない方が賢明〈加瀬健太郎 お父ちゃんやってます!〉

(2024年10月2日付 東京新聞朝刊)

 今年のプロ野球セ・リーグのペナントレースは、最後までヒリヒリした戦いが続いた。まんまと僕に、阪神ファンとして育て上げられた長男と、一緒に野球を見るのは楽しい。最近では、全選手の出身高校の偏差値を調べたり、「代打に八木がいればな」(八木選手は長男の生まれる前に引退)とつぶやいたりして、その成長ぶりに驚かされる。

 そんな、野球のことならペラペラしゃべる長男も年ごろなのか、普段はそんなにしゃべらない。例えば、「今日は学校どうやった?」と聞くと、「普通」と答える。「バスケの試合はどうやった?」と聞いても、「普通」。「テストは?」「林間学校は?」何を聞いても「普通」。こっちもしびれを切らし、「どういうふうに普通?」と聞くと、「えっ、…普通に」。これ以上は深追いしない方が賢明、と知った。

 夏前に働きだした妻が、「働いていいことしかない」と、うれしそうにしている。何が、どういいのか聞くと、「正直、もう(僕の)顔を見るのもうんざり、あきあきしてたけど、一緒にいる時間が減って、これぐらいならうまくやっていけると思った。ほら、最近、私たち仲いいよね?」と屈託のない笑顔。

 ガーン、と僕がショックを受けていると、「結婚16年目って、こんなもんよ」と慰められた。それでも立ち直れない僕が、「もう、好きとか、そういう気持ちはないの?」と聞くと、即座に「きもっ」と妻は言い放ち、「家族としては好きかな」と続けた。「家族としては…」。これ以上は傷つくのも怖いので、深追いしない方が賢明、と知った。「家族だからって、なんでも聞けばいいわけじゃない」と学ぶ。

加瀬健太郎(かせ・けんたろう)

 写真家。1974年、大阪生まれ。東京の写真スタジオで勤務の後、ロンドンの専門学校で写真を学ぶ。現在は東京を拠点にフリーランスで活動。最新刊は「お父さん、まだだいじょうぶ?日記」(リトルモア)。このほか著書に「スンギ少年のダイエット日記」「お父さん、だいじょうぶ?日記」(同)「ぐうたらとけちとぷー」(偕成社)など。14歳、11歳、7歳、4歳の4兄弟の父。これまでの仕事や作品は公式サイトで紹介している。