障害のある子も家族と一緒に楽しめる「多感覚演劇」 調布市のNPO法人が今月から都内で上演

 じっとしていられなくても、声を出しても、寝転がっていても大丈夫。知的障害や発達障害、医療的ケアが必要な重い障害のある子どもらと家族のための「多感覚演劇」が今月から来月にかけて、東京都内で上演されます。観客を少人数に限定した上で、舞台と客席との境をなくしたり、役者が小道具を使いながら子どもたちの五感を刺激したり。日本ではなじみの薄い多感覚演劇の取り組みを取材しました。

英国の劇団から学び、昨年から上演

 「羽根をもっと優しくゆっくり振った方がいいかな」「動きが速いと子どもたちにはちょっと怖いかも。風に舞っている感じで」。東京都新宿区の稽古場を訪ねると、俳優やスタッフたちが羽根を持ちながら子どもに働きかける動作を打ち合わせていました。

 調布市のNPO法人「シアタープランニングネットワーク」が主催する多感覚演劇「白い本のなかの舞踏会」の練習風景です。公演は、今月22日から来月27日まで、新宿区や八王子市など4会場で計12回行われます。

多感覚演劇の稽古に励む出演者ら

 このNPO法人は2010年から、障害児施設や病院などで演劇を上演してきました。しかし、代表の中山夏織さん(56)は、分かりやすさを求めて作品が子どもっぽくなったり、子どもが声を出したり動き回ったりして外に出されてしまうことにもどかしさを感じていました。そんな時、英国で35年以上、障害児らに向けた作品を上演している劇団「オイリーカート」を知りました。2016年には劇団の芸術監督らを招き、「物語を分からせるのが目的ではない」「五感を刺激する体験を提供する」など理念や手法を直接教わりました。昨年3月には初めて都内で上演しました。

寝たきりの子にも布を近づけて…

 今回上演するのは3作品目で、「白い本」がテーマです。本の中から飛び出したきらきらの海、ふわふわの空、白い雪の森の3つの世界を出演者と子どもたちが一緒に旅する内容です。ピアノやバイオリンなど音楽家3人の生演奏をバックに、プロのバレリーナと俳優4人が、羽根やヒトデ形のぬいぐるみ、電球などの小道具を使いながら、物語の世界を表現します。寝たきりの子には上から布を揺らして近づけるなど、子どもたちに1対1で働きかけ、小道具に触れてもらったりもします。途中、興奮を落ち着かせるための深呼吸のような動きを取り入れたり、先が見通せることで落ち着けることが多い自閉症の子のために、物語の展開などを事前に知ってもらうための資料を用意したりしています。

子ども役のスタッフを相手に小道具の羽の動きを確認する出演者たち

 前回の上演時には、ずっと小道具のボウルの中に顔を埋めている子がいたり、最初はじっとしていた知的障害のある子が何回も見に来るうちに、出演者と一緒に踊ったりしたそうです。出演した俳優の落合咲野香(さやか)さん(36)は「子どもたちが真剣に見てくれているのが伝わってくる。反応がビビッドで、演じている側もエネルギーをもらいます」と手応えを感じています。

家族みんなで楽しめる時間提供したい

 繰り返し訪れる家族も多いそうで、中山さんは「それだけ需要があるということ。お母さんたちもリラックスして楽しんでくれているのがうれしかったですね」と話しています。「障害児を育てている家庭に、家族みんなで楽しめる時間を提供できたら」との思いもあります。

 中山さんによると、英国や米国では、音量や光の演出を通常より抑えた公演日を設けたり、認知症の観客に向けたパフォーマンスがあったりと障害のある人が観劇しやすい取り組みが進んでいます。一方、日本では少人数向けの演劇は採算面などへの理解や支援が不十分で、障害児が観劇できる機会は保障されていません。

多感覚演劇を企画・プロデュースした中山夏織さん

 スタッフの一人で、医療的ケアが必要な娘を育てる女性(33)は「出かけたいけれど周りの目が気になったり、そもそも行く場がなかったりして閉じこもりがちな障害児を育てる親にとっても重要で、気分転換になります」と取り組みを歓迎しています。

 中山さんは「多感覚演劇を多くの人に見てもらい、障害があっても演劇を楽しめる環境を広めたい」と話しています。

都内各会場で公演

 公演は、12月22、23日が新宿区弁天町の障害者施設「シャロームみなみ風」、1月13日が八王子市台町の「島田療育センターはちおうじ」、1月20日が渋谷区代々木神園町の「国立オリンピック記念青少年総合センター」、1月26、27日が世田谷区南烏山の「コミュニティカフェななつのこ」で。

 各回定員は6家族ほどで、公演時間は約1時間。参加費は子ども・大人各1人の1組2000円。すでに満員の回もありますが、一般の見学者枠も用意しています。申し込み、詳細はこちらから。