相次ぐベビーシッターの性犯罪 防ぐには性犯罪歴の照会システムが必要です 子どもの性被害に詳しい山田不二子医師に聞く

 ベビーシッターの仲介サイトに登録する男性シッターによる性犯罪が相次ぎました。現状では性犯罪の恐れがある保育者を排除できる仕組みがないため、導入を求める動きも出ています。子どもの性被害に詳しい認定NPO法人「チャイルドファーストジャパン」理事長で、内科医の山田不二子さん(60)に社会が取り組むべき課題について聞きました。

山田不二子さん

マッチングのシステムを否定しても解決しない

―今回の事件をどう捉えますか。

 性虐待というのは、親など相手が身近であればあるほど、また長期間繰り返されるほど心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの大きな傷を残すものです。ただ、他者から1回だけ、だったとしても傷を受けないわけではなく、被害は深刻です。

 マッチングサイトを使ったシッター利用の危険性も指摘されるが、今の社会で子育てしている家庭にとっては一つの選択肢。こうしたツールがなければ、仕事を続けられない保護者もいるので、システムを全面否定することは解決になりません。

―今回逮捕者が出たのは東京都の認定事業者です。

 自治体の認定がなければマッチングさせられないのだから、そこへの信用性は高める必要があります。例えば、自治体は事業者からの申請書だけを単純に信用して認定するのではなく、アポイントなしで業務実態を調査した上で認定するなど、より慎重な対応が求められるのではないでしょうか。


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―保育者や教育者から子どもに対する性虐待は衝撃が大きい。

 シッターだけでなく、集団で子どもを見る保育所や幼稚園、児童養護施設などでも性被害は起きています。いずれも強い立場に乗じた性暴力です。子どもに遊びだと思い込ませたり、「二人だけの秘密だよ」と共犯関係を作ったりすることも多い。子どもの人権を冒瀆(ぼうとく)する犯罪です。

子どもが被害をほのめかしたら、どう聞くべきか

―子どもたちはどんなふうに被害を訴えるのでしょうか。

 「○○さん怖い」「もう来てほしくない」といった子どもの言葉には注意を払うべきです。その際、親の言葉がけで適切なのは「何かあったの?」とか、「それってどういうこと?」という聞き方。いきなり「〇〇さんに何かされたの?」と問い詰めたり、「いつ?」「何回?」と子どもに難しい質問はしないようにしましょう。

 子どもが被害を訴えたら親はまず、信じてあげることが何よりも大事。「おおごとにしたくない」「内々で処理したい」と思いたくなりますが、小児への性犯罪は繰り返されやすいため、被害を明らかにしないで処理すれば、また別の子が被害を受けることになります。園や学校、事業者は当事者のため、対応が不十分になることが多いです。警察などに訴え出てほしい。社会全体で訴え出る行動を支持、評価することも重要です。

―訴えを受けた捜査機関に求められることは何でしょうか。

 私は、子どもの発達段階と言語能力に応じて、誘導せずに子どもの話を聞き取る「司法面接」を広める活動を続けてきました。日本でも2015年から児童相談所・警察・検察の三機関連携による協同面接が導入されましたが、未熟です。子どもの言葉のこの部分は経験していなければ語れない、ここはオブラートに包んで話しているな、これは話を変えている可能性がある、などと判断できる技術が必要です。技術がないのに、「子どもの言うことは信用できない」などというのは間違っています。

「国家が子どもを性犯罪から守る」という理念を

―保育事業者などが性犯罪の危険性がある人物を見抜くことはできますか。

 性犯罪者の多くは暴力的にふるまったり、威圧したりするようなこともなく、ふるまいや見た目でフィルタリングすることは非常に難しいのです。だからこそ、万一紛れ込んでしまった場合、一度でもやったところで排除するしかありません。

―「一発アウト」にするためには

 与党でも議論されているようですが、法律に欠格条項を設けることは重要でしょう。一度でも事件を起こしたことが分かれば、事業者はすぐに辞めさせられます。ただ、就職の際、欠格条項に該当することを本人が正直に申告することは望めないので、それだけでは不十分。米国や英国で導入されているように、子どもに接する仕事に就こうとする人の性犯罪歴を照会できる仕組みが必要です。アクセスできる人や範囲を制限した上で、採用などの際に確認できるようにすべきです。

 犯罪歴は本来、他人に知らせるべきことではないですが、子どもへの性犯罪に関しては別格だという社会的同意が必要です。大人でも性被害は深刻だが、子どもには自分で対処するすべがない。国家が子どもを性犯罪から守るという理念の下に制度を構築すべきだと思います。

―被害を受けてしまった子どもをどうケアしていくべきでしょうか。

 大事なことは「なかったことにしない」ことです。もちろんそんな経験はしないほうがいいに決まっているけれど、明らかになったときには親も祖父母も、無理に忘れさせようとするのではなく、児童精神科医などの専門家と共に、みんなでその子の傷を癒やすことに取り組むべきです。傷が完全に癒えなくても、「自分のせいじゃない」と思えれば、その後の人生を健やかに送っていけるはずです。

山田不二子(やまだ・ふじこ)

 認定NPO法人チャイルドファーストジャパン(CFJ)理事長。国際子ども虐待防止学会(ISPCAN)理事。一般社団法人日本子ども虐待防止学会理事・事務局長。子どもが性被害を受けた家庭からの多くの相談に応じている。児童相談所や警察、検察、医療機関が連携し、虐待された子どもから適切に話を聞き取る「司法面接」の必要性を長年訴え、国内への導入につなげた。関係機関での研修なども行っている。