「子ども庁」への期待と疑問 縦割り打破?「それより自民の経済最優先を変えれば」の声も
自民の若手が提案 首相が創設に意欲
「施策の縦割りを打破し、組織の在り方を抜本から考えることが必要だ。要望を極めて重く受け止め対応したい」。菅首相は5日の参院決算委員会でこう語り、子ども庁の創設に意欲を示した。
菅首相に提言したのは、自民党内で2月に発足した若手議員でつくる勉強会だ。中心人物の一人、山田太郎参院議員は「例えば、いじめで子どもが亡くなったり、性虐待を受けたりして、問題解決をしようとする場合、現状だと、どの省庁が担当なのかを決めるだけで時間がかかる。まずは、責任者となる所を作らないとダメなんです」と必要性を強調する。
子ども予算を欧州並みに引き上げたい
日本の子ども関係の政策にかける予算は、先進諸国の中でも低い。山田氏は「司令塔」がないことにその要因があるとし、こう解説する。
「例えば厚労省だと、児童相談所が少ないとよく言われる。現場は『予算がなくて、人がいない』と言う。そこで予算を振り分けようと厚労省の中で議論した時、『いやいやうちは高齢者施策もあり、そっちも大事』となる。つまり、責任を持った大臣がいて、子どもの施策を命懸けでやる所がないと、予算が守れないんですよ」。提言書では、子ども関係の予算を国内総生産(GDP)の3%台半ばまで引き上げ、欧州並みにすることも盛り込んだ。
縦割りより、自民のスタンスが問題?
千葉商科大の田中信一郎准教授(政治学)は、確かに縦割りの問題はあるとしながらも、「現在の子育て施策が充実していないのは、縦割りが本質的な要因ではない。政権与党の自民党が長年、子どもに関する政策の優先順位を低くしてきたからだ」と指摘する。
田中氏によれば、自民党は一応、人々の生活を良くしようとは思っているが、その手法は経済を成長させ、好景気を生みだし、結果として良くするというもので、国の予算は民間企業への補助金や減税の財源などにより多く振り向けられ、直接、子育てや教育、福祉に配分されてこなかった。
そうした経済性優先政策への不満は、山田氏らが立ち上げた勉強会が有権者らのニーズを把握するため、インターネット上で実施したアンケート結果にも表れている。「特に大学の授業料が高い」「ICTなど公教育の質を向上して」「保育士の待遇を上げて保育の量と質を確保して」など、縦割りの弊害よりも直接的な予算配分を求める要望が高かった。
庁を作っても、予算と権限がなければ
田中氏は「こうした政策の多くは、子ども庁がなくても、自民党の経済最優先政策を変えれば、できるはずだ」と指摘する。それに対し、山田氏は「子ども庁ができれば、優先順位を決めてやることになる。これだけ明確にニーズが出ているので、当然やらなければいけないと思っている」と話す。
不登校や引きこもりの子どもを支援するNPO法人「教育研究所」の牟田光生理事長は「新たな庁を作っただけで予算が増えなかったり、権限も与えられなければ意味がない」とした上で、こう語る。「これまでも不登校の子どもの支援などで、役所の連携が不十分と感じるところはあった。そうした現場の問題点を解決できる省庁になるよう、きちんと考えてほしい」
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