感染拡大で保育現場に多大な負担 家族が濃厚接触、ワクチン副反応…保育士不足に拍車 識者「配置基準の引き上げを」
「園児の多い9月だったら対応できない」
「こんなに出勤できない保育士が重なるなんて」。東京都内の私立認可保育園の40代女性園長は8月上旬、職員からの休みの連絡に頭を抱えた。もともと夏休みの保育士がいたのに加え、ワクチンの副反応による発熱で1人が欠勤し、手術を控えた別の保育士も感染防止で外出制限に。子どもが濃厚接触者になり家で世話をしなければいけない保育士もいて、計4人が欠ける事態になった。
保育士1人がみる子どもの人数は、国の最低基準でゼロ歳児は3人、1歳と2歳児なら6人などと定められている。園長は配置基準を満たすため、専任で置くことで運営費が助成される園長や主任保育士が一時的に早番や遅番に入ることが可能か、区の担当者に相談したが、「いいとは言えない」との答えだった。
このため急きょ、子どもの世話を家族に代わってもらった保育士が出勤。幸いこの日は園児の休みも多く、最低基準の保育士はそろえられたが、「これが(園児が多い)9月だったら対応できない」と嘆く。
おもちゃやドアノブを消毒 増える業務
内閣府によると、急に休んだ職員の代わりなど、やむを得ない場合は一時的に園長や主任保育士が保育に入ることも認められている。だが自治体によっては徹底されず、混乱が生じている。
コロナ禍でおもちゃの消毒などの業務も増えた。1日2回、1つずつ消毒し、ドアノブや壁の消毒も回数を増やして念入りにしている。鼻水やせきが出ている子も登園してくる。園長は「保育士にワクチン接種もしてほしいが、人手がないのでなかなか進まない」と漏らす。
「最低の人員配置のままだった悪影響」
厚生労働省は10日、保育園での感染防止策を強化する方針を決め、年内にも指針を策定するとした。園長は「感染対策は必要だが、これ以上業務が増えたら現場はやっていけない。離職者が増える」と懸念する。
保育に詳しいジャーナリストの小林美希さんは「最低の人員配置のまま、運営費の抜本的な引き上げをせずにきた保育行政の悪影響が、自治体による見解の違いや人手不足などに出ている」と指摘する。
規制緩和が人件費カットに利用され、保育士不足が常態化している園もあるという。小林さんは「保育士の配置基準を上げ、人を多く雇うことで評価される仕組みに変えないと、保育士の労働環境はますます悪化する」と改善を求めた。
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