「保育士1人で30人」の配置基準でいいですか? 国際基準でも最低レベル 防衛費はあんなに増やすのに…
15人を相手「もう1人保育士がいたら…」
「せんせい、とれたー」
保育室の奥の棚の部品を外しちゃった子がいた。駆け寄って部品を付け直す。振り返ると、不機嫌そうに寝転がっている子が。「どうした?」と抱っこしつつ他の子にも目を配る。まだ登園時間帯。やって来た子に「おはよう」、保護者には「変わりはないですか~」と声掛け…。
先月のある朝、認可保育所「世田谷つくしんぼ保育園」(東京都世田谷区)では、男性保育士(34)が15人ほどの園児に対応していた。「せんせい、きてー」と呼ばれる。「すぐ行ってあげたいし、親御さんともじっくり話したい。もう1人保育士がいたら…」ともどかしそうに言う。
国の基準は5人のところ、8人でも不十分
この園は障害児を含む3~5歳児約60人を3クラスに分け、年齢が違う子も同部屋で過ごす異年齢保育を実施している。国の配置基準と障害児対応で保育士5人となるところを、計8人で担当。加えて非常勤スタッフもいる。
それでも人手は十分とはいえない。保育園の一日は長い。この園は午前7時15分に登園が始まり、延長保育が終わるのは午後8時15分。8時間労働が原則だから、仮に登園時間の保育士を増やすと、夕方以降の人員配置が手薄となる。
子どもたちにしっかりと目を配るには、もっと多くの保育士が必要だ。現場では、国の配置基準では少ないという声が以前から上がっている。なかでも4~5歳児は、基準が定められた1948(昭和23)年から全く変わっていない。保育士1人で30人を見られることになっている。
公園への散歩 置き去り事故の不安が…
この日は、公園への散歩もあった。16人を保育士3人で引率。車が通るたびに立ち止まり、20分かけて着くと、ブランコやすべり台へ一斉に散らばる。「いつも心の中で人数を数えています」。保育士歴27年の渡辺真由美さんも気を張る時間という。
園児を公園に置き去りにする事例が各地で起きているからだ。昨年9月、静岡県で通園バスに残された3歳児が亡くなった直後、国は、バスだけでなく園外活動での安全を徹底するよう、保育園などに改めて注意喚起した。
子どもの環境改善がどうして後回しに?
仕事だから気を張るのは当然だけど、配置基準を充実させ、保育士にゆとりができれば、リスクを減らせるのに―という声は根強い。愛知県の保育士らが昨年から「子どもたちにもう1人保育士を!」という掛け声で集会やSNSで発信。福島大の大宮勇雄名誉教授(保育幼児教育)も「日本の基準は国際的にも最低レベル。子ども一人一人に寄り添う保育はできない」と話す。
「子どもの育つ環境や保育士の職場の改善は、どうして後回しなのか」。世田谷つくしんぼ保育園の布川順子園長(71)は首をかしげる。防衛費は、2023年度から5年間で総額43兆円に増やすことになったのに。「未来の国をつくるのは子どもたち。お金を使う先が違うのでは」
保育士の配置基準とは
保育士1人が受け持てる子の数を定めたもので、国が1948年に制定。保育所に支給される運営費のうち、人件費にはこの基準も反映される。1998年に0歳児の基準を「保育士1人で6人」から「3人」にしてから改定がない。改善について厚労省は「検討しているが、安定的な財源とセットで考える必要がある」として、実現に至っていない。一方で国は、2015年度から3歳児は15人に1人の配置ができるよう費用を給付。4~5歳児も2023年度から一部大規模園で25人に1人配置できるよう予算化した。いずれも、保育士1人が受け持つ子の数を基準に比べ5人少なく見積もっている。