保育ドキュメンテーションのメリットと課題とは 保育の可視化で子どもの小さな成長がわかるが、多忙な保育士の負担に
考察も加えた「成長ストーリー」
A4の紙に、絵本を挟んで2人の園児が向かい合う写真3枚と文章が並ぶ。「1歳児クラスの○○君が絵本を読んでいたら、年下の園児が近づいてきた。車の絵を指さして、ぶーぶーと言った」-。そんな説明とともに、「年下の子の存在を受け入れ、思いやりを持って関わる気持ちが芽生えたのかもしれません」と担当職員の考察が入る。
子どもの成長が、写真と文章で分かる「成長ストーリー」。名古屋市西区の認定こども園「寺子屋まんぼう」の職員が、園児一人一人に対して作る記録だ。
職員がこまめに撮影 毎月まとめ
職員は、カメラ付きの専用端末を常に持ち歩き、子どもの成長を感じる場面を逐一撮影。毎月、A4一枚に園児の活動と考察をまとめる。保護者は園内で自由に読めて、保育や子育てについての思いも書ける。
2008年から取り組んできた牧野彰賢(あきたか)園長(53)は「それまで職員は、保育の計画や目標に照らし合わせて、子どもを『できる』『できない』で判断していたが、子どもの小さな成長を見つけるためにより目を配り、行動の意味を考え、一人一人の成長に合わせた保育ができるようになった」と保育の質の向上を実感する。同園を視察し、ドキュメンテーションの参考にする施設は多い。
個人情報の管理、記録する手間…
ただ、課題もある。撮影には、子どもの特性を理解して行動を予測する必要があり、職員の力が問われる。また、子どもの安全が最優先で、常にカメラを構えられるわけではない。職員の負担もあり、同園もまとめる頻度は月に一度。保護者の同意や写真など個人情報の管理も欠かせない。
学習院大の秋田喜代美教授(保育学)は「多忙な保育士は、勤務中に子どもから離れる『ノンコンタクトタイム』の確保が難しく、記録をまとめる時間を捻出しにくい。また、写真を撮る子どもが偏らないような配慮も必要だ」と語る。
保育者・保護者・子どもの対話に
時間的な余裕をつくるため、職員の仕事を効率化するサービスも進化してきた。保育施設向けにICT(情報通信技術)の有料サービスを提供する業界大手の「コドモン」(東京)は、ドキュメンテーションのサービスも2020年から開始。写真を撮り、パソコンで記録を書き入れるだけで、保護者向けの掲示や連絡帳などが容易にできる。現在約4000の施設が契約し、増えてきているという。
秋田教授は「ドキュメンテーションなど保育の可視化は、保育者、保護者、子どもとの対話も生む。保育士の配置基準や待遇の改善で、取り組める環境が整うといい」と訴える。
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