「抱っこひもで自転車」は危険です 転倒して子どもの頭を強打、死亡例も 法令違反でも「やむをえず」

(2023年4月19日付 東京新聞朝刊)

子どもを抱っこしながら自転車に乗って転倒した場合、子どもの頭部が路面に打ち付けられる恐れがある=国民生活センター提供の動画から

 この春、子どもを自転車に乗せて保育園や幼稚園などへの送迎を始めた保護者もいるだろう。中には、抱っこひもで子どもを抱っこしながら自転車に乗っている人もいるかもしれない。だが、子どものけがに詳しい医師は「抱っこしての自転車運転はバランスを崩しやすく、転倒して頭部に重篤なけがを負わせる危険性がある」と指摘する。

都道府県の規定「幼児用座席かおんぶ」

 「自転車で送り迎えしないと、生活が回らないという事情も分かる」。東京都板橋区で3人の子育てに追われ、保育の仕事に携わる女性(38)は複雑な思いを打ち明ける。

 子どもの自転車への同乗は、各都道府県の公安委員会規則で定められている。どの都道府県でも「幼児用座席を使用するか、おんぶをしなければならない」と規定しており、抱っこしての同乗は子どもの年齢を問わず法令違反となる。

おんぶは不慣れ ヘルメットも1歳以上

 ただ近年は、おんぶより、抱っこの機能が充実した乳幼児を抱えるための製品が主流で、おんぶに不慣れな保護者も多い。また、幼児用座席やヘルメットを使おうとしても、1歳以上が対象の製品しか市販されていない。このため、園が遠い家庭や、上の子の送迎などでゼロ歳の乳児を連れていかなければならない家庭では、やむをえず抱っこひもを使って自転車に乗せているケースがある。

法令で認められている子どもの自転車への同乗方法(上は子どもが1人、下は子どもが2人の場合)=国民生活センター提供

保育施設側も苦悩「だめとは言えない」

 冒頭の女性の知人は、保育園まで歩くと30分ほどかかるが、自転車なら10分で着くため、子どもを生後8カ月から自転車前部の幼児用座席に座らせて通園していたという。

 女性自身は「自分の忙しさのせいでこの子にけがをさせたら後悔する」と、子どもが1歳になるまでは自転車の利用を控えてきた。だが、大変さが分かるだけに、勤め先の保育施設で、1歳未満の子を自転車に乗せて通う保護者がいても、「『だめだよ』とはとても言えない」と悩む。

子どもを抱っこして自転車を運転すると、運転者がペダルをこぐ際に太ももで子どもが持ち上がり、抱っこひもの隙間から転落するリスクも=東京都港区の国民生活センターで

半数以上が「法令違反」認識していた

 国民生活センターが昨年9月に、子どもを自転車に同乗させたことがある1000人を対象に実施した調査では、目的を「園への送迎」とした人が最多で、64.3%に上った。このうち、最も年齢の小さい子どもを同乗させた方法は「抱っこ」が52.6%と最多で、1歳未満は12.4%、1歳以上2歳未満は24%だった。

 また、子どもを抱っこして自転車に乗せた人の半数以上(54.7%)は、法令違反になることを認識し、このうち45.5%は「他に適切な移動手段がない」ことを理由としていた。

子どもを抱っこで自転車に同乗させて転倒した場合、子どもの頭部が路面に打ち付けられる恐れがある(国民生活センター提供)

 抱っこで同乗させた経験がある人の6割以上は、転倒や子どもが転落した経験、あるいはそのおそれが「あった」と回答した。

ハンドル操作しづらく、脇から転落も

 東京都府中市にある都立小児総合医療センター・救命救急科の医師、岸部峻さん(38)は「抱っこして自転車に乗ると、視野が狭くなり、ハンドル操作もしづらくなる上に、カーブなどでバランスを崩しやすい。子どもの体が密着していないと、バランスを崩した際に脇からスルッと抜け落ちることもある」と指摘する。

抱っこひもの脇から子どもが抜け落ちてしまうことも=国民生活センター提供

 全国で年数件の死亡例があり、「頭部を強打し頭蓋内損傷が生じると、まひが残ったり発達が遅れてしまったりすることもある」と話す。「頭部を強打する可能性がある」点では、おんぶも同様のリスクがある。

 ただ、「規制するだけでは、親御さんは身動きが取れなくなってしまう」と岸部さん。「1歳未満でも使えるヘルメットの開発や、重心が低く転倒しにくい自転車や無料のタクシーチケットの利用を行政が支援するなど、環境を整える必要がある」と訴える。

子どもを抱っこして自転車を運転すると、足元の視界が狭まるほか、ハンドル操作がしづらくなることを説明する国民生活センターの職員=東京都港区の国民生活センターで