全国の保育所で「不適切な保育」914件 全自治体対象の初調査 「定義」なく報告されていないケースも

坂田奈央、奥野斐 (23年5月13日付 東京新聞朝刊)
 こども家庭庁は12日、全国の保育所で昨年4月から12月の間に、914件の園児への「不適切な保育」が確認されたと発表した。全市区町村を対象にした初の実態調査で明らかになったもので、そのうち90件は激しく揺さぶるなどの虐待に当たると自治体が判断した。ただ、自治体ごとに件数のばらつきがあり、「不適切な保育」の明確な定義がないために報告されていないケースもあるとみられる。

曖昧な「不適切」の定義 実態どこまで

 「不適切」の定義に対しては関係者らから疑問の声が上がる。捉え方は自治体や施設ごとに異なっているため、報告件数にばらつきが目立ち、認定NPO法人「児童虐待防止全国ネットワーク」の高祖常子理事は「ゼロという答えが多かった。何が不適切に当たるのかの定義が曖昧で、何のために調査したのかよくわからない数字」と指摘し、調査が実態を表していないとの見方を示している。

 政府は調査結果を踏まえ、不適切をより明確化すべきだと判断。従来の考え方のうち「子どもの心身に有害な影響を与える行為」とするだけで明確でなかった「虐待等」の具体的な内容について12日、新たにガイドラインを示した。それでも高祖理事は「明確化とは言いづらい」と疑問視する。保育現場での個別の行為がどこまで「虐待等」に当たるかの判断が難しいためだ。「明らかに虐待に当たるといった明確に線引きできる事案を調査し、再発防止につなげていくべきだ」と訴える。(坂田奈央)

 国の再発防止策 現場から批判「負担軽減だけでなく人的資源充実を」

 こども家庭庁はガイドライン以外にも、「不適切な保育」の再発防止の対策を打ちだし、背景に現場のゆとりのなさを挙げ、業務の見直しによる保育士の負担軽減などを盛り込んだ。だが、有識者らからは保育士の配置基準の改善などで人的資源を充実させないと、抜本的な対策にならないという批判も出ている。

園長「保育記録見直し、でいいのか…」

 対策では、指導計画や保育記録の合理化や、行事の見直しなど、保育士の負担を減らす運用上の工夫を示した。保育士への研修の実施や、自治体による巡回支援の強化など、保育の質を高める施策も掲げている。

 「虐待を防ぐには、職員同士がコミュニケーションが取れる時間と心の余裕が重要」。東京都内の私立認可保育所の河合清美園長は話す。ただ、現行の配置基準では人員がぎりぎり。研修を充実させようにも、その間に子どもをみる人手が確保できるか不透明だ。

 保育記録見直しには「子ども一人一人の状況や保育を振り返る機会にもなる。削減が必ずしもいいのか…」と疑問を呈す。自身の園長業務も、休みの保育士の代替や補助金申請書類の記入・提出、保護者や行政担当者の対応など多岐にわたる。今回の対策で「見直し作業が増えるかも」。

正規保育士の確保促す施策が大切

 保育士の労働環境に詳しい名城大の蓑輪明子准教授は、対策は業務削減の契機になると評価しつつ「お金や人は出さずに、現場の工夫でなんとかして、という内容。抜本的な改善にならない」と批判。保育士が研修や振り返りが十分できない現状を改めるには「配置基準を引き上げ、施設が正規保育士を確保するよう促す施策が大切」と語る。

 保護者団体「保育園を考える親の会」顧問の普光院亜紀さんは「保育士や施設がしつけと思って虐待しているケースもある」と指摘。保護者の訴えや内部告発で発覚する事例も少なくないとして「安心して積極的に情報を上げられ、子どもの被害をすぐ止める仕組みを」と求めた。(奥野斐)

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2023年5月13日

コメント

  • なぜ今になってこんなに騒がれているんだろう。もっと前からあったのに。 私は15年以上保育士してましたが不適切ではなく虐待と思われる行為をする保育士沢山見てきました!手を縛る、無理やり食べさせる、
    なつこ 女性 30代 
  • 定時に出勤、定時に帰る。そんな当たり前のことが全くできない職場です。かといって、残業代もほとんど出ない。基本給もとても少ないので、生活にも余裕がない。休日にも仕事のことを考えていることが多い。こんな仕
     女性 30代