全国の保育所で「不適切な保育」914件 全自治体対象の初調査 「定義」なく報告されていないケースも
曖昧な「不適切」の定義 実態どこまで
「不適切」の定義に対しては関係者らから疑問の声が上がる。捉え方は自治体や施設ごとに異なっているため、報告件数にばらつきが目立ち、認定NPO法人「児童虐待防止全国ネットワーク」の高祖常子理事は「ゼロという答えが多かった。何が不適切に当たるのかの定義が曖昧で、何のために調査したのかよくわからない数字」と指摘し、調査が実態を表していないとの見方を示している。
政府は調査結果を踏まえ、不適切をより明確化すべきだと判断。従来の考え方のうち「子どもの心身に有害な影響を与える行為」とするだけで明確でなかった「虐待等」の具体的な内容について12日、新たにガイドラインを示した。それでも高祖理事は「明確化とは言いづらい」と疑問視する。保育現場での個別の行為がどこまで「虐待等」に当たるかの判断が難しいためだ。「明らかに虐待に当たるといった明確に線引きできる事案を調査し、再発防止につなげていくべきだ」と訴える。(坂田奈央)
国の再発防止策 現場から批判「負担軽減だけでなく人的資源充実を」
園長「保育記録見直し、でいいのか…」
対策では、指導計画や保育記録の合理化や、行事の見直しなど、保育士の負担を減らす運用上の工夫を示した。保育士への研修の実施や、自治体による巡回支援の強化など、保育の質を高める施策も掲げている。
「虐待を防ぐには、職員同士がコミュニケーションが取れる時間と心の余裕が重要」。東京都内の私立認可保育所の河合清美園長は話す。ただ、現行の配置基準では人員がぎりぎり。研修を充実させようにも、その間に子どもをみる人手が確保できるか不透明だ。
保育記録見直しには「子ども一人一人の状況や保育を振り返る機会にもなる。削減が必ずしもいいのか…」と疑問を呈す。自身の園長業務も、休みの保育士の代替や補助金申請書類の記入・提出、保護者や行政担当者の対応など多岐にわたる。今回の対策で「見直し作業が増えるかも」。
正規保育士の確保促す施策が大切
保育士の労働環境に詳しい名城大の蓑輪明子准教授は、対策は業務削減の契機になると評価しつつ「お金や人は出さずに、現場の工夫でなんとかして、という内容。抜本的な改善にならない」と批判。保育士が研修や振り返りが十分できない現状を改めるには「配置基準を引き上げ、施設が正規保育士を確保するよう促す施策が大切」と語る。
保護者団体「保育園を考える親の会」顧問の普光院亜紀さんは「保育士や施設がしつけと思って虐待しているケースもある」と指摘。保護者の訴えや内部告発で発覚する事例も少なくないとして「安心して積極的に情報を上げられ、子どもの被害をすぐ止める仕組みを」と求めた。(奥野斐)
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