3歳児の園バス置き去り死から10カ月 全国で安全対策が進む中…父親の葛藤「事件がなかったかのように園が続いている」
ひょうきんで活発だった千奈ちゃん
「病院のベッドに横たわるわが子は、まるで人形のようだった」。父親はあの日を振り返る。口元には、泡になった血が固まり、朝ご飯の時に妻が編んだ三つ編みも、汗でべったりとぬれていた。
医師の心臓マッサージで、わずかに心電図が動く。「これは生きているということですか」。そう聞くと「やめると止まります」と医師。続けて「このままでは内臓に負担がかかります」と中止を提案され、言葉を継げなかった。
ひょうきんで元気、活発な子だった。家ではアイドルの動画に合わせて踊ったり、公園に行けば1時間でも2時間でも走り回っていた。
生まれたばかりの妹にミルクをあげるなど、しっかり者のお姉さんとしての姿も。父親は「園でもみんなから話しかけられる人気者だった」と懐かしんだ。
ツイッターで発信 園への怒り
父親は3月からツイッターで発信を始め、メディアの取材も受け続けている。原動力は、園への怒りだ。
事件直後は世間の目を恐れて発信が出来ませんでした。しかし世間から忘れられ、川崎幼稚園は通常に戻り、牧之原市と約束した委託保育園返還すら反故にしてきました。
悔しいのです。
安全装置義務化で収束した娘の死を、生きた証を、遺族の気持ちを、多くの方に知って欲しいのです。
— 河本千奈の父親 牧之原市 バス置き去り 遺族 (@kishindounyo) March 3, 2023
当日にバスを運転して千奈ちゃんを置き去りにした前理事長は事件後、遺族の前で「廃園します」という文書を署名とともに書いた。
だが園は事件の1カ月後、前理事長の息子が理事長職を引き継いで再開した。父親は、子どもを預けざるを得ない家庭があることは認識しつつも「事件がなかったかのように園が続いていることはおかしい」と強い不信感を拭えないでいる。
今も、娘と同じくらいの子どもと散歩している家族を見ると、うらやましくて仕方がない。ふと、涙がこぼれることも多い。父親は「こんなずさんなことをした園、組織でいいのか。お子さんを通わせる保護者の方々にも、もう一度考えてほしい」と訴えた。
川崎幼稚園バス園児置き去り死亡事件
2022年9月5日、静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で同園に通う河本千奈ちゃん=当時(3)=が車内に置き去りにされ、重度の熱中症で亡くなった。
静岡県警は同年12月、通園バスを運転していた増田立義前理事長と添乗補助員だった女性が車内の確認を怠り、クラス担任だった女性と補助職員女性も千奈ちゃんの出欠など所在確認を怠ったとして、4人を業務上過失致死の疑いで書類送検した。
政府は事件を受け、通園バスを使用する全国のこども園などに置き去り防止のための安全装置の設置を義務付けた。
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