「こども誰でも通園制度」ニーズも運営方針も地域で大きな差 親子が孤立しがちな都市部は申し込み殺到、地方では利用ゼロも
こども誰でも通園制度
親が就労しているなどの要件を満たしていなくても、誰もが定期的に保育施設へ通えるようにする制度。行政の支援が届きにくい親子が孤立し、虐待などにつながることを防ぐ狙いがある。国の少子化対策の柱の一つとされ、こども家庭庁は、月10時間までの枠で、時間単位で利用できる仕組みを想定している。区市町村が指定した保育所や認定こども園、幼稚園などで導入される見込み。来年度からの本格実施を前に、現在は31自治体50施設でモデル事業が行われている。保育園などに通っていない5歳以下の子どもは、同庁の推計では約152万人おり、2歳以下が9割以上を占める。
文京区 140人超がキャンセル待ち
「母子べったりだったので預けられてホッとした」。東京都文京区の中津アリネさん(38)は10月から長男(2)を週1回7時間ほど通わせる。キャンセルで枠が空き、利用できた。同区では、6月の予約開始初日に申し込みが殺到。今も希望者140人超がキャンセルを待つ。
イヤイヤ期の長男は、激しいかんしゃくが数十分続くこともあるといい、「自分も余裕がないとつい声を荒らげてしまう。(虐待などと間違われて)近所の人に通報されるんじゃないかと思う時もある」と中津さん。「1日預けると、次の日は子どもに笑顔を向けられる」と事業に感謝する。
受け入れる認可外保育園の村瀬光世園長も「子育てで手いっぱいで、十分な睡眠や食事ができていなかったお母さんたちが、すっきりした表情になってきた」と手応えを感じている。
在園児と別室 職員数に余裕が必要
文京区は、この園で0~2歳児を1日6人、1週間で計30人受け入れる。在園児とは別室で、保育士2~3人と過ごす。
「集団生活に慣れていないと、散歩や食事など在園児と同じリズムで過ごすのは難しい」と村瀬園長。在園児の保護者からも一緒にすることへの懸念の声があるといい、「在園とモデル事業の親子全員を公平にするには、同室での保育だとバランスが取れない」。ただ、定員や教室、職員の人員に余裕がない施設では、こうした別室での対応は難しそうだ。
松戸市「支援が必要な家庭」に限定
文京区のような公募ではなく、支援の必要な家庭に限って通園を促す自治体もある。千葉県松戸市は、市独自のアンケートで未就園児の子育て状況を把握していたため、負担感や孤立感を抱える家庭に限り、利用を呼びかけた。10月13日時点で3園に計28人が通う。
通院や買い物などで子どもを短時間預ける一時預かり事業とは区別している。担当者は「モデル事業では利用者を絞り、虐待などを未然に防ぐ対策として進めている。このまま新制度に移行すれば市内で約6000人が対象になり、対応は難しい」と不安視する。
「一時預かり事業」とのすみ分けは?
一方、福井県若狭町では、利用者は1園の6人にとどまる。もともと一時預かり事業を活用して定期的な利用が可能。モデル事業は「新しいことを始めたという感じではない」(担当者)という。
静岡県島田市では、8月から受け入れを開始したが、同日時点で利用者はいない。負担感を抱える家庭に保健師が利用を呼びかけるが、今夏の猛暑の中で子どもを屋外に連れ出すことを心配した母親もいて10月上旬までに1人が利用したのみ。こちらも一時預かり事業があり、担当者は「モデル事業とのすみ分けが分からない」と戸惑う。
滋賀・近江八幡市では募集に苦労…
滋賀県近江八幡市は11月から事業を始めたが、募集に苦労する。対象の2つの園に2歳児以下の空きはなく、3歳児以上で1日5人の受け入れが可能だが、担当者は「3歳以上はほとんど通園しているため、人が集まらない」とこぼす。
「保育園を考える親の会」(東京)の普光院亜紀顧問は「地方も核家族化が進んでいるが、祖父母が近くにいるなど比較的育児を手伝ってもらいやすい。都市部の方が孤立しやすく、ニーズが高まったと考えられる。保育士配置や場所の確保が適切にできるように、国がしっかり支援することが大切だ」と話す。
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