<記者の視点>保育の「質」認可園でも懸念 「量」拡大で生じたひずみ
待機児童解消のため、ここ数年で保育施設の整備が急速に進んだ。自治体の努力として評価できるが、一方で、数字に表れない保育の「質」が置き去りにされている懸念がある。保育士の配置や保育室の面積など国の基準を満たして開設したはずの認可保育所でも、耳を疑うような話が聞こえてくるようになった。
首都圏にある株式会社が運営する認可保育所で昨年働いていた保育士の女性は、就職して1カ月余りで園長にさせられる経験をした。人手不足のためだ。頑張ったが、子どもに必要な備品の購入やベテラン保育士の配置を本社に求めても応じてもらえず、力尽きて退職した。「経営者が保育を知らない。現場は若手ばかり。子どもは二の次、三の次だった」とため息をついた。
別の認可保育所に子どもを通わせる親は「園庭がないのに散歩に連れて行ってもらえない」「保育士の入れ替わりが激しく不安」と訴えた。
本紙の子育てサイト「東京すくすく」で9月、特集「大丈夫?保育の質」を組み、こうした実態を伝えたところ、現役保育士や親から同様に訴える多くの声が寄せられた。
自治体としては「待機児童が多い街」の汚名は避けたい。財政面から公立保育所の新設が難しい今、保育所を造ってくれる民間事業者はありがたい存在だ。審査で多少問題があっても「目をつぶる」ということになっていないか。
開設時は基準をクリアしても、日々の運営が始まれば、慢性的な人手不足の中で無理に拡大したような事業者の施設では、ひずみが生じる。保育士が疲弊し、子どもをきちんとみなくなったり、虐待に走ったりするリスクがある。
だからこそ、運営状況を実地でチェックし、問題があれば改善させる行政の指導監査が重要だ。法令では都道府県などに年1回以上の実地検査の実施を義務づけている。ところが、待機児童の多い首都圏の37市区の認可保育所について本紙が調べたところ、2016年度は半数超の保育所で行われていなかった。
検査ですべての安全が確保できるわけではないが、意義は大きい。都の同年度の報告では、検査した約240の認可保育所の6割で何らかの法令違反が見つかった。ある区の担当者は「保育の経験や力がなく、自分たちでトラブルや問題を改善できない事業者も出てきた」と行政が介入する必要を認める。行政が検査を怠れば、子どもの死亡や深刻な事故という最悪の事態にもつながりかねない。
乳幼児期は、子どもの自己肯定感など豊かな人格形成の土台となる大切な時期だ。私も子どもを持つ親として、どの地域のどの施設も、子どもが健やかに育つ環境であってほしいと願う。行政は「量」の確保に努力はしつつ、問題のある事業者は改善させ、悪質な場合は排除するなど、最低限の保育の「質」を守れる体制を整えてほしい。
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