俳優 吉田鋼太郎さん 「おいハンサム!!」の源太郎は理想の父親像 現実は3歳の娘に翻弄されて…

住彩子 (2024年6月23日付 東京新聞朝刊)

娘との生活について話す吉田鋼太郎さん(野村和宏撮影)

母は書道の師範 でも本当の夢は… 

 父は穏やかで優しい人でした。35歳まで大手商社に勤めて、そこから一念発起して事業を始めました。でもうまくいかなくて。だから中学に入ってから、私たち一家は母の稼ぎで食べていました。母は芸術家肌で、働くために1年で書道の師範になってしまったんです。

 母はすごく厳しかった。僕は長男だったから、あらゆることで怒られました。あいさつをしなさい、肘を突いてご飯を食べてはいけない。でも、社会に出たときに恥ずかしくないようにしつけてくれた。とても感謝しています。

 もともと、母は絵描きになりたかったんです。でも明治生まれの祖父が許してくれなかった。女性が絵描きになるなんて、という時代でした。だから、僕が俳優になると言ったときに応援してくれたのだと思います。ただ、テレビに出たときは怒られました。舞台は芸術、テレビは違うという意識だったんでしょう。でも、僕が出ているドラマをこっそり録画して見てくれていました。

嫌われたくないので…僕は父親失格

 今、3歳の娘の子育てをしています。言うことは聞かない、ものを壊す、散らかす。イラッとすることもあります。でも、それを子どもにぶつけてはいけないんです。世の中のお父さんお母さんには、イライラすることも含めて楽しんでほしい。片付け一つでも子どもとの関係が深くなると考えるんです。

 娘が生まれて、仕事への向き合い方も変わりました。俳優の仕事って、うまくいかないとき、ピリピリしたものが体にたまっていくんです。そういう「自分だけが大変なんだ」と思っていることを、子どもは見抜くんです。だからとにかく楽しむ。「今日も芝居ができるんだ」と前向きに考えています。

 今回映画化されたドラマ「おいハンサム!!」シリーズで演じている源太郎は、理想の父親像を詰め込んだ人。娘たちがクモを怖がっていたら、ちゃんと「クモも生きているんだぞ」と言う。そういうことを小さいころからちゃんと伝える。僕が源太郎のようにできるかって? 無理です。絶対無理。だって、3歳の娘に翻弄(ほんろう)されているんですよ。

 実は父親失格です。娘に嫌われたくないので、妻が駄目ということを全部やっています。甘い物を食べさせる、欲しいものは何でも買ってあげる、動画も見せちゃう。だから妻は大変です。妻に怒られるので、娘はこっそり私のところに来るんです。「パパ、パパ」って。だから隠れて2人で悪いことをしています。同志のような関係ですね。

 僕は、檀一雄さんのエッセー「娘達への手紙」が好きです。困難があっても自分たちの命は自分たちで磨きなさいという内容です。父は困ったときは手を貸す。でも口は出さない。それが父親だと思います。だって、娘の人生の主役は娘なんですから。

吉田鋼太郎(よしだ・こうたろう)

 1959年、東京都生まれ。劇団シェイクスピアシアター、東京壱組を経て、1997年に演出家の栗田芳宏と劇団AUNを結成。主な出演作に舞台「リア王」「ヘンリー六世」など。テレビドラマの「半沢直樹」「花子とアン」「おっさんずラブ」などで注目を集める。2022年に放送開始の東海テレビ制作、フジテレビ系列の土ドラ「おいハンサム!!」シリーズでは伊藤家の父源太郎を演じ、話題に。ドラマ発の映画「おいハンサム!!」が21日から全国で公開中。