今もかわいい!いわさきちひろの世界 文化服装学院の学生が子ども服10点を再現 東京・ちひろ美術館で5月6日まで展示
緑の水玉模様のワンピース、80個の花をあしらったデザインも
白い丸襟にふんわりした袖、たっぷりのギャザーを入れたワンピース-。美しい色合いとモダンなデザインの子ども服に、来場者から「かわいい!」と声が上がる。会場には、学生10人が授業でデザイン画を描き完成させた10点が、ちひろの絵とともに並ぶ。
それぞれに学生たちの苦労と工夫が詰まる。「緑の風のなかで」(73年)でちひろが描いたのは、緑の水玉模様のワンピース。望陀(もうだ)瑛美里さん(20)は水玉模様を手書きし、デジタルプリントした生地で仕立てた。
「はなぐるま」(67年)から生まれたのは、カラフルな一着。木村恵菜さん(25)は元絵で子どもたちが押す荷車に載った色とりどりの花からイメージを膨らませ、ワンピースに別の生地で作った80個の花をあしらった。「水彩画の雰囲気を出したい」と花は自分で染めたという。
学生たち「古さを感じない」
周防知花さん(20)は「青いワンピースの少女」(70年代前半)の胸元の細かいタックまで忠実に再現。
「バラと少女」(66年)を担当した山本綾香さん(20)は、元絵にはない服の前面を想像し、花形のボタンを付けた。学生たちにとって、生まれるずっと前に描かれた絵は新鮮に映ったようで、「古さを感じない」と口々に話した。
一人一人に個性を与えたちひろ
「大正生まれのちひろ自身も大変おしゃれな人だった」と美術館の主任学芸員、徳永美幸さんは話す。子どもも着物が普通だった当時、ちひろは自宅にミシンがあり、母文江が手作りした洋服を着ていた。女学校を卒業後は洋裁学校に通った。長男の松本猛さん(67)は「『自分の形を決めないほうがいい』と言って、いろんな服を着ていた」と振り返る。
文化服装学院との縁は戦前にさかのぼる。ちひろは女性書家の小田周洋に藤原行成(ふじわらのこうぜい)流の和仮名を学んだ。小田が学院で教えていたことから、代わりに学生に書を指導することがあったという。1950年代半ばから60年代には、学院が関わったファッション雑誌「装苑(そうえん)」で子ども服のデザイン画を手掛け、70年代初めは雑誌「ミセス」に母と子の挿絵を描いた。
ちひろは絵を描く時、よく独り言をつぶやいたという。「この子にはどんな服が似合うかしら」…。そうしてちひろが絵の中で一人一人に与えた個性を、学生たちが見事に立体で表現した。徳永さんは「一点一点、絵の柔らかさ、雰囲気を大事に取り組んでくれた」と喜ぶ。