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〈あべ弘士 子どもがおとなになる間〉vol.3 整える、観察する、干渉しない

   

 僕が旭山動物園の飼育係になったのは1972年。実はそれまで一度も動物園に行ったことがなかったので、飼育員の仕事が何なのかも知らなかった。漠然と「自然とかかわる仕事がしたい」と思っていたけれど、「飼育員になろう!」と思い立ったのは、北海道に古くから生息したエゾオオカミと人間との関わりについて書かれた本を読んだのがきっかけでした。

 なりたてのころは「動物と友だちになろう」と思った。だって、ライオンのおりに入って、堂々と渡り合えていたらかっこいいでしょう。飼育員になりたい人は、みんな最初は「ならしたい」「友だちになりたい」って思うんじゃないかな。

 だけど、彼らにしたらなれたくなんかないんだよね。家畜じゃない、野生動物なんだから。動物たちは自由なんだ。自分たちの世界は自分たちでつくることができる。僕たちみたいに鈍くさい人間が偉そうなこと言っちゃいけない。飼育員になって10年くらいして、そのことに気付いたんだよね。

 旭山動物園は、動物本来のありようを見せる、という展示手法によって有名になり、全国からお客さんが来る動物園になった。その思想の原点は、僕たちが若いころからいつも話をしていたことだったんだ。

 動物にとってまず大切なのは環境を整えてあげること。彼らにとって一番は、もともとすんでいた環境をそのまま、よっこいしょって持ってくることだ。それはできないとしても、なるべく近づけてあげる。

 動物たちが望んでいるのはコンクリートではなく土。ただ、土はコンクリートと違って水で洗い流すことができないから、うんこやおしっこが染み付いちゃって大変。「それなら定期的に取り換えればいいじゃないか」って。だけど当時の旭山動物園にそのための予算はゼロ。それなら自分たちでやるしかないと、夜おそくまで土を取り換えたり落ち葉を敷きつめたりした。

 それから観察の仕方。ベタベタくっついて観察するんじゃなくて、遠くから様子をしっかり見て取る。あ、けがしている、とか鼻水たれてる、とか発情期だなとか。そばちかくで観察されたら動物たちの行動は自由じゃなくなってしまう。

 あとは干渉しないこと。”空間”と”時間”が制約された場に生きる動物園の動物たち。飼育員がならそう、とするのも彼らにとっては干渉だ。本来なら人間が干渉できない野生生物に来てもらって成り立っているのが動物園だ。だから干渉なんて失礼なんだな。飼育員は動物たちの通訳になって、そのことを市民に伝えることが仕事なんだと思うようになった。

 今、子どもたちを取り巻く社会を見ていると、家庭も、学校も、環境は整えず、じっくり観察はしないのに、干渉はする。逆ですね。

 「何で分からないの?」って、親がすぐに答えを求めるのではなく、今は分からなくても、いつか分かるようになるための道筋とか方法を大人は教えてあげられるといいよね。もっと、子どもの世界を尊重しなくっちゃいけないんじゃないかな。

  動物の命を描いた多くの作品を手がけている絵本作家のあべ弘士さんから、子育て中の人たちや子どもにかかわる人たちへのメッセージを月1回、お届けします。