「親の体罰禁止」法案成立へ…でも踏み込み不足 「教育上必要」なら体罰を許すことに

(2019年5月27日付 東京新聞朝刊)
 親による体罰禁止を明記した児童虐待防止法と児童福祉法の改正案が28日にも衆院を通過し、今国会で成立する見通しだ。東京都目黒区と千葉県野田市で女児が犠牲になったような、「しつけ」と称する児童虐待の根絶を目指す法整備。一歩前進には違いないが、踏み込み不足の点も目立つ。

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23区や中核市の「児童相談所の設置」は義務化しないまま

 「一律に義務化することは適切でないという声が寄せられている」

 安倍晋三首相は、改正案を可決した24日の衆院厚生労働委員会で、中核市(58市)や東京都の23特別区に児童相談所の設置を義務づけなかった理由について、そっけない説明に終始した。

 児童虐待事件では、児相が問題を把握しながら対応が後手に回るケースが多く、児相の数も質も改善が必要との声は強い。都道府県と政令市には児相の設置義務があるが、中核市や東京23区にはない。中核市で自前の児相を持つのは金沢市、神奈川県横須賀市、兵庫県明石市だけだ。

 与野党の修正協議で、野党は中核市などにも設置を義務づけるよう求めたが、与党は最後まで拒否。財政上の理由で設置に消極的な自治体への配慮とみられるが、「児相がカバーする人数が多すぎて、子どもを守る仕組みが行き渡らない」(立憲民主党の阿部知子衆院議員)との懸念は強い。

表現が曖昧 野党「正当な体罰はない」 与党、修正に応じず

 体罰禁止についての表現も曖昧との批判がある。

 改正案は、親権者による体罰を禁じ、「民法の規定による範囲を超える行為により懲戒してはならない」などと定める。「親権者は、監護及び教育に必要な範囲内で子を懲戒できる」とする民法822条を踏まえた表現だが、「教育上必要な懲戒」と称した体罰を許すことになりかねない。


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 野党は「正当な体罰があるという余地を残さない規定にすべきだ」(共産党の高橋千鶴子衆院議員)と修正を求めたが、与党は応じなかった。厚労省は、体罰の定義についてガイドラインを作るとしている。

 民法の懲戒権に関し、改正案は施行後2年をめどに必要な措置を講ずるとしている。野党からは「2年間ゆっくり検討している暇はない」との批判が出た。

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専門家「法改正の効果は予算次第。制度設計できているのか」

 国がどこまで予算をつけるかで、実効性が左右されそうな項目も多い。

 改正案は、児相に医師と保健師を配置し、いつでも弁護士が助言できるようにするなど、児相の体制強化を前面に出した。これらの人材を確保するには十分な予算が必要だ。

 4月に児相を開設した明石市の泉房穂市長は、国会に参考人として出席した際に「中核市が児相をつくることは可能。課題はお金と人だ」と、児相を増やすためにも国の財政支援が必要と訴えた。

 だが、これまで国が十分な予算措置を講じてきたとは言えない。2014年度の厚労省調査では、児童虐待防止を含む「社会的養護」(困難な境遇の子どもを社会で養育すること)にかける国の予算は、国内総生産(GDP)の0.02%。米国(2.6%)などと比べて大きく見劣りする。根本匠厚労相は「低水準にあるのは事実」と認める。

 花園大学の和田一郎教授(子ども家庭福祉)は「社会福祉養成系の大学を卒業した学生は、厳しい社会福祉の現場を志望しにくい。待遇が悪いからだ」と説明。改正案に関し「財政面も含めた制度設計ができているのかと問いたい。法改正の効果は予算で決まる」と指摘する。

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