〈あべ弘士 子どもがおとなになる間〉vol.2 ゾウを真っ赤に描いた子がいたんだ

 10代のころ絵描きを目指していた僕は、旭山動物園の飼育員時代も園内の動物の解説などの絵を描いていました。園内ではよく子どもたちの写生会をやっていて、子どもたちの絵を見るのも大好きだった。そういう日は仕事をさっと終わらせて、子どもたちのところに見に行っていました。

 子どもの絵って素晴らしい。「うわあ、そうやって描くのかあ」「かっこいいなあ」って後ろから見ていました。ピカソが「いかにして子どもの絵と同じ絵を描けるか」というようなことを言っていたけれど、ほんとにピカソも真っ青だよ。亡くなった絵本作家の長新太さんも同じようなことを言っていた。僕も今でも「子どもの絵にはかなわない」と思っています。

 あるときやってきた4、5歳くらいの園児たちの写生会で、ゾウを真っ赤に描いた子がいたんだ。「いいなあ」と思って見ていたら、先生は「ちゃんと見てごらん、ゾウさんが赤いはずないよ、色が違う」と。僕は「いいんだよ赤で、いいんだよ」って思っていたよ。

 実際に、僕は赤いゾウを見たこともあったんだ。アフリカケニアで見たゾウの群れは本当に真っ赤だった。30頭ほどの群れだったけれど、みんなもう本当に真っ赤なの。なぜだと思う? それは土の色、テラコッタ。ゾウは砂浴び、土浴びをする。土を体に塗ったくって害虫や皮膚病から体を守るんです。その土の色だったんですね。「ゾウにも赤いヤツがいるんだよ」って言いたかったよ。

 キリンの首をすごく短く描いている子もいたな。これまた先生は「キリンの首は長いでしょう」って。ところが、短い首のキリンもいるの、旭山動物園にも。それは、赤ちゃん! 赤ちゃんは首が長いと、邪魔になっておっぱいが飲めないんだ。キリンのお母さんの乳房は後ろ脚の付け根の方にあって、赤ちゃんはお母さんの前脚の方からもぐって飲むの。だから首が長いと飲めないんだ。

 これも飼育員をしていたから知っていたこと。飼育員時代は、実際には描いていなくても、動物たちの世話をしながら、触れて、観察して、目で描いていたのかもしれないな。その経験は今、動物を描く時の自信にもなっています。

 僕は、おぎゃーと生まれた赤ちゃんは100%動物で、そこからだんだんと「人間度」が増えて「動物度」が減っていくんだと思ってるんだ。3歳くらいが動物度70~80%くらい、小学2年生くらいで人と動物が半々くらいかなあ。

 それが成長だから仕方ないんだけど、人間度が高くなっていって、「常識」が身に付いてくると、絵はあんまり面白くなくなっちゃうんだよな。ほめられたい、とか点数がよくなりたい、とか意識しちゃうから。人間は動物! 動物度が高い時期の子どもたちの子育て、面白がってほしいなあ。

 動物の命を描いた多くの作品を手がけている絵本作家のあべ弘士さんから、子育て中の人たちや子どもにかかわる人たちへのメッセージを月1回、お届けします。
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