子育ての孤立を防ぐ”ご近所付き合いSNS” 川崎のマンションでLINEグループが効果大 「みんなで育てている。気持ちが楽になった」

(2019年7月2日付 東京新聞夕刊)
 井戸端会議は、会員制交流サイト(SNS)へ-。ご近所付き合いが希薄な都市部で、SNSで身近な情報を共有する動きが広がっている。川崎市宮前区のマンションでは、小学生以下の子どもがいる世帯が無料通信アプリ「LINE」でつながる例も。不審者注意の連絡から子育ての悩み相談まで、新たなご近所付き合いに役立てている。 

LINEでの過去の投稿を振り返る米山奈美さん(右)と谷沢理里さん

きっかけは妊婦3人の入居 3児の母が「手助けできれば」

 マンションの子育て世帯に、LINEを使った「井戸端会議」を呼び掛けたのは、宮前区の主婦で小学4年、1年、年中児の3人の子を育てる米山奈美さん(42)。全32戸のマンションに暮らし、昨年10月に子育て中の15戸をLINEグループ「子育てチーム」でつないだ。

 もともと子どもの年齢が同じ親同士で連絡していたが、2年半前、同時期に妊婦3人が入居。「手助けできれば」と声をかけ、米山さんを含む4人のLINEグループを作り、「子どもの年齢に限らず、もっと情報交換したい」とグループを一つにまとめた。

孤独な育児で実感「小さな不安、近くに聞ける人がいたら」

 週に数回、「お薦めの小児科は」「粗大ごみの日を教えて」「落とし物がありました」など、役所などに聞くまでもない質問や連絡の投稿ややりとりが交わされる。以前、風邪で寝込んだ米山さんが状況をつぶやくと、心配した人が総菜を自宅に届けてくれた。「『今から公園に行くけど、一緒に行く人?』という声掛けもある。助け合いや子どもの預け合いがしやすくなった」と米山さんが話す。

 LINE活用の背景には、米山さんの孤独な育児経験がある。第1子が生まれたとき、接客業の仕事を辞めたばかりで、実家も遠く、周囲には友人知人もいなかった。

 「日中は母子だけ。赤ちゃんを抱きながら、この湿疹は大丈夫か、熱っぽいけど病院に行く必要があるのか、ちょっとしたことで不安になった。近くに聞ける人がいたらと思った」と振り返る。「妊娠中から地域のつながりが大事」と実感した。

「妊娠期からのつながりが大切」と感じたという米山さん(右)

子ども同士も仲良くなった 産後うつの防止や防犯にも期待

 米山さんに誘われてLINEグループに参加した妊婦の1人、谷沢理里(りり)さん(27)は「子育て中の人がいると知っただけで、安心できた」と笑顔を見せる。子ども同士の関係も築かれ、2歳の長女を小学4年生が迎えに来て、マンション内の公園で遊ばせてくれる。

 マンション内ではあいさつが増え、子どもが周りの大人を頼ったり、親以外に叱ってもらったりすることも。SNSを通じて始まったご近所付き合いはどこか懐かしい。米山さんは「みんなで子どもたちを育てているという意識が出てきて、私も気持ちが楽になった」という。「おせっかいおばちゃんがいて、1つのツールでつながれば、母親の孤立や産後うつの防止、防犯や共助にもつながるはず」と期待した。

広がる「地域SNS」で情報シェア 医療、グルメ、物々交換も

 地域の情報を共有する民間の「地域SNS」の活用も広がっている。

 「PIAZZA(ピアッツァ)」(東京都中央区)は、子育てや医療、グルメ、生活情報の共有、不用品の物々交換などができるアプリだ。湾岸部の豊洲・勝どきエリアで始まり、自治体や企業と連携してイベント情報などを発信。同社によると、「豊洲・勝どきでは30~40代世帯の3割に普及している」といい、リアルにつながる場づくりにも力を入れる。

ご近所SNS「マチマチ」の画面イメージ(マチマチ提供)

 自治会や町内会は、全国的に高齢化や新規加入率の低下などの課題を抱える。「ご近所SNSマチマチ」は文京、渋谷区など17自治体と提携し、行政情報を発信。昨年から利用する港区の担当者は「従来届きにくかった若い世代に直接、早く情報を届けられるのがメリット」と話した。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年7月2日