育児と介護の「ダブルケア」に支援の輪 当事者、全国に25万人 悩み語り合うカフェや行政の相談窓口
参加した女性「自分の時間ゼロ。誰にも言えなかった」
「離乳食作りやオムツ替えなど、子どもの世話に手がかかるのに、認知症の母親からも目が離せない。自分の自由な時間はゼロ」
長男(4つ)と長女(1つ)を育てながら、同居する母親(68)を介護する名古屋市瑞穂区の女性(36)は7月、同市内で開かれた「ダブルケアカフェ」で、テーブルを囲い、同じ境遇の当事者約10人に思いを吐露した。
女性の母親が若年性認知症と診断されたのは5年前。それまでは静岡県の実家で兄と母親が同居していたが、兄が不眠でうつ傾向になり、1年前に、女性が母親を自宅に呼び寄せた。
母親は物忘れが進み、女性を娘だと分からなくなる時も。長男は話が通じない母親をばかにし、母親と言い合いになったり、たたき合ったりすることがある。「周囲のママ友には介護をしている人なんて、誰もいない。どうせ言っても理解してもらえないと思い、誰にも愚痴を言えなかった」
そんなとき、区の社会福祉協議会の職員から、ダブルケアカフェのことを聞き、初めて参加。「つらいのは自分だけじゃないと思え、心が軽くなった。気軽に相談できる仲間ができた」
当事者がカフェをオープン 大学も共同シンポで啓発
2016年の内閣府の調査によると、ダブルケアの当事者は全国で推計約25万人。少子化と晩産化、高齢化などが進み、きょうだいが少ないことなどを背景に、介護と育児を同時に担わなければいけない人が増えている。
だが、認知度はまだ低く、行政の窓口も、子育てと介護が別々になっているケースがほとんど。十分に悩みを聞いてもらえる場がなく、一人で抱え込む当事者も少なくない。
カフェは、当事者の一人で、同区の杉山仁美さん(38)が昨年11月に設立した任意団体「ダブルケアパートナー」が今年5月から隔月で開催。会員は15人ほどで、参加費は1回200円。1時間半ほど、お茶を飲みながら語り合う。ストレス解消法を教え合ったり、レクリエーションで遊んだりする。
ダブルケアについて研究し、自身も父親(75)を介護しながら2人の子どもを育てている名古屋学院大(名古屋市熱田区)講師の沢田景子さん(41)と、杉山さんが状況を改善しようとカフェを発案。同大と共同でシンポジウムを開催するなどし、啓発している。
専門家「行政支援が不可欠」 堺市の窓口、昨年300件利用
行政の取り組みも少しずつ進みつつある。堺市は16年に、介護保険の地域の窓口で、市内の7区役所内にある地域包括支援センターに、ダブルケアの相談窓口を設けた。保健師やケアマネジャーらが対応し、昨年度は300件ほどの利用があった。
岐阜県中津川市は支援が必要な人と、支援をする地域住民を橋渡しする「ファミリー・サポート・センター事業(ファミサポ)」を実施。事前登録すれば1時間700円から自宅での子どもや高齢者の見守り、買い物の付き添いなどの支援を頼むことができる。
沢田さんによると、ダブルケアは虐待に発展するほど追い詰められるケースもあるといい、「家族構成の把握も含め、行政の支援は不可欠」と指摘する。