出掛けられない週末…家の中で読み聞かせを コツや絵本の選び方、専門家に聞きました
子ども時代の読書量が多いほど「将来に目標」
子どもへの読み聞かせにと、多くの人が手に取る絵本。「文字でつづられるお話と絵の両方から刺激を受け、想像力など感性が磨かれる」と話すのは、名古屋芸術大准教授の鎌倉博さん(60)だ。幼稚園長や小学校教員として、30年以上、読み聞かせをしてきた。
子どものころに読書の習慣を身に付けることは、成長してからどんな影響があるのか。国立青少年教育振興機構は2012年、初めて調査を実施。20~60代の5258人にインターネットで聞いた回答を、読書をよくしたグループ、しなかったグループなど3つに分けて分析した。それによると、小学校入学前から中学までに多く読書をした人たちほど、「将来の目標がある」「人生を主体的に送っている」といった未来志向や自己肯定感、市民性などで意識が高い傾向が明らかになった。
絵本や「読み方」を選ぶとき、大事な要素は?
青少年教育振興機構は「読書は豊かな人生を送るための第一歩」と位置付け、2014年度から「絵本専門士」、昨年度からその下に「認定絵本士」の養成講座を創設。名古屋芸術大は4月から、認定絵本士を目指す学生が読み聞かせのスキルや絵本の知識を学ぶための講座を開講する予定で、鎌倉さんも担当する。
効果的な読み聞かせの方法については「登場人物を大げさに演じ分けるのがいい」「受け手のイメージを壊さないよう表現は抑制的に」などさまざまな意見がある。しかし、それぞれに良さがあり、明確な結論は専門家の間でも出ていないのが現状だ。「大事なのは時間や場所、相手といった『環境』を見極めて絵本や読み方を選ぶこと」と、鎌倉さんは力を込める。
例えば、50年以上にわたるロングセラー「いないいないばあ」(童心社、作・松谷みよ子、絵・瀬川康男)は、家族でにぎやかにだんらんしている時にお薦めという。工夫のしどころは、ネコやクマ、人などさまざまな登場人物が手で両目を隠して「いないいない…」のポーズをしているページをめくって「ばあ」と言う瞬間だ。優しく言ってみたり驚いてみたり。読み手の大きな声や大げさな身ぶりも家族みんなで楽しめて、子どもも喜ぶ。反対に、眠る前の静かな時間にいいのは「まねしてごらん だっこでぎゅっ」(ひかりのくに、作、絵・山岡ひかる)。「だっこでぎゅっ」の文章に合わせて優しく抱きしめると、子どもは安心できるという。
必要なのは、子どもとしっかり向き合うこと
「たとえ同じ本でも、その時々で読み方を変えることが必要」。晴れた日なら弾む気持ちに合わせて明るく朗らかに、雨の日は沈みがちな心を包み込むように優しい調子で―といった具合。もし子どもの元気がないなら声の大きさを抑え気味にして、ゆっくり穏やかに読むと相手に寄り添うような温かみが出るという。
最近は小学校中学年、高学年でも楽しめる絵本が増えている。読み聞かせと合わせ、成長に応じて自分で本を選ぶ機会を持たせるのも読書を習慣付けるには不可欠だ。地域や社会に目を向け始めるこの時期、戦争の悲惨さを描いた「ちいちゃんのかげおくり」(あかね書房、作・あまんきみこ、絵・上野紀子)はお薦めの一つ。実際にあった戦争がテーマで分かりやすい。
「登場人物の生き方が考え方に影響を与えることもある」と鎌倉さん。読み聞かせは技術も大事だが、子どもとしっかり向き合うことが欠かせない。「親子で絵本を楽しんでほしい」