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「攻めてる絵本」が続々登場 異業種の作り手、1人称童話… 大人も一緒に楽しめる

(2019年9月13日付 東京新聞朝刊)
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バリエーション豊かな絵本が並ぶ児童書店「クレヨンハウス東京店」=東京都港区

 少しずつ涼しくなって、読書にぴったりの季節が近づいてきた。「うちの子は本を読まない」と嘆く親たちに、お薦めなのが絵本。近年は異業種の人が作品を手掛けたり、童話をひと味違った視点で捉え直したりといった新しいタイプの絵本が次々に登場している。大人が読んでも学びや発見があるのが特徴だ。親子でいかが?

アリが考える「1とは何か」

 ぼくは、アリになってしまった。

 昨年十月発売の絵本「アリになった数学者」(福音館書店)は、そんな一文から始まる。作者の森田真生さん(34)は2016年、数学の歴史を通し、人間の心に迫った著書「数学する身体」(新潮社)で小林秀雄賞を受賞。「独立研究者」を名乗って活動している。

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自身初の絵本となる「アリになった数学者」について語る森田真生さん=京都市左京区で

 子ども向けの著作は初めてだ。物語の中で、数学者の「ぼく」はアリになる。「ぼく」はエサを数えるのに「数」を使うが、「1、2…」と人間のように物を数える指を持たないアリには伝わらない。アリとの交流を通して「1とは何か」を考える異色の内容で2万5000部を売り上げている。

大人にとっても深い問い掛け

 「もとになったのは、人間とは違う体を持つアリになったら、『1』も見え方が違ってくるのではないかという発想」とにっこり。創作に当たっては、暗闇で手を使わず、あごを使ってパンを食べてみるなどアリになりきったという。

 対象は主に小学生。しかし、大人でも考え込んでしまうほど深い問い掛けがある。「数学は必ず正解があると思われがちだけど、そう単純じゃない」と指摘。「そうした固定観念が崩れると面白い」と期待する。

室井滋さん、しずちゃんも

 森田さんをはじめ、異なる分野で活躍する人が次々に絵本を著している。人気絵本作家の長谷川義史さんと組んで「しげちゃん」など何冊もの作品を送り出している女優の室井滋さん、ボクシングに打ち込んだ日々を描いた自伝的な「このおに」が話題のお笑い芸人しずちゃんこと山崎静代さん、挿絵もストーリーもない「えがないえほん」が人気の米国俳優、B・J・ノバクさん…。異なる背景を持つ人の進出によって、絵本は多様性を増している。

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女優・室井滋さんの「しげちゃん」

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しずちゃんこと山崎静代さんが手掛けた「このおに」

 3人称が当たり前の童話の概念を覆す作品も。高陵社書店が17年に刊行した「1人称童話シリーズ」は「桃太郎」「シンデレラ」「浦島太郎」の3作品を主人公の目線で描き直した。

 すぅーっといきをすいこむと、あまくてやさしい、いいにおい。ぼくは生まれる前、大きな桃の中にいました

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「1人称童話シリーズ」の「桃太郎が語る桃太郎」

 これは、桃太郎の書き出し。作者でコピーライターの久下裕二さんは「何を見て何を感じたかを主人公になって想像すれば、感情移入がしやすいのではと思った」と話す。もし鬼退治に行くことになったら? もしガラスの靴を落としたら? 別の誰かの視点を疑似体験することで「相手の立場になって物事を考える視点が養える」と言う。

出版不況の中、広がる読者層

 出版指標年報によると、18年の紙の書籍・雑誌の推定販売額は前年比5.7%減の1兆2921億円で、14年連続で減っている。一方、昨年の新刊のうち絵本が4割を占める児童書は875億円で前年より1.3%増えた。

 絵本専門の月刊誌「MOE」の門野隆編集長(44)によると、読者層や作品の幅が広がったことが大きい。従来と違う絵本を次々に登場させる「攻めの姿勢」が功を奏しているようだ。SNSなどデジタルなコミュニケーションが全盛の今、門野さんは「一方的に読み聞かせて終わりでなく、読んだ後で親子で感想を言い合える絵本が求められているのでは」と分析している。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2019年9月13日