コロナ禍で幼児の歩数が最大6割減、運動の質は低下したまま 動きの多様性を培う3要素を意識しよう

(2020年10月10日付 東京新聞朝刊)

緊急事態宣言下の4~5月は、公園も遊びにくい状況だった

 3~5歳の幼児の1日当たりの歩数が、緊急事態宣言下の5月、コロナ禍前と比べて2~6割減っていたことが分かった。幼稚園や保育園は再開したが、日常活動の制限は続き、発育への影響も懸念される。専門家は「運動の量だけでなく、質も落とさないようにする工夫が必要だ」と指摘する。

4~5月の運動量「半分以下」 運動会中止で目標もなく…

 「保育園にも行けず、公園でも遊びにくい雰囲気があり、上の子の運動量はいつもの半分以下」。東京都内で2児を育てる会社員女性(40)は外出自粛が求められた4~5月を振り返る。

 当時は育休中。生後7~8カ月の長女を抱えて動きづらく、5歳の長男を外で遊ばせられずに「テレビに頼りがちだった」。登園再開で多少は走り回れるようになり、運動量の心配は緩和される一方、秋の運動会は中止に。「跳び箱や登り棒に挑戦して目標を達成し、喜びを感じる機会がなくなった」と残念がる。

3~5歳の1日あたりの歩数、コロナ前と比べると2~6割減

 実際この時期、3~5歳の幼児の歩数は、普段と比べ大幅に減った。順天堂大と花王は緊急事態宣言下の幼児の活動実態を捉えるため、5月1~14日に、首都圏在住の1~5歳の幼児とその母親41組(幼児は53人)を対象に歩数を調査。1日当たりの平均歩数は、1~5歳で6938歩、3~5歳では6702歩だった。平日と休日で大差なかった。

 コロナ禍以前の先行研究によると、3~5歳の平均歩数は平日は9686~1万5278歩、休日は8238~1万1207歩。順天堂大大学院スポーツ健康科学研究科長の内藤久士教授(運動生理学)は「緊急事態宣言下では2~6割少なく、特に平日は大幅に減った」と説明する。

感染予防で遊びやスポーツに制限 神経発達する時期なのに

 歩数の減少は発育に影響を及ぼすのか。内藤さんは「休園・休校の解除で量的な減少の影響は小さい」とする。一方、感染防止のために鬼ごっこなど接触のある遊びや、登り棒や跳び箱など複数の子が同じ用具を使う運動を控える状況を受け、「運動の質は下がっている。神経発達が著しく、多様な動き方が身に付くはずの幼児期に、『できないことができるようになる』経験が減ったり、失われたりする状況がずっと続けば、発育・発達に影響があるだろう」と指摘する。

 文部科学省の幼児期運動指針(2012年)では、毎日合計60分以上、体を動かすことを推奨。幼児期に体を動かすことで、とっさの時に身を守る動きや、スポーツに結び付く動きなどを身に付けやすくなるとする。

動きの多様性を培うには? 「遊びの中で3つの要素を意識」

 家庭や園・学校活動で留意できることは何か。研究に参加した同大の鈴木宏哉(こうや)先任准教授(発育発達学)は「3つの要素を意識して」と話す。日常の遊びの中で、

①体を移動させる(走る・登る・よけるなど)
②バランスをとる(転がる・回る・ぶら下がるなど)
③用具などを操作する(運ぶ・投げる・掘るなど)

という動作を取り入れると、動きの多様性を培えるという。

 お勧めの遊びは「王様だるまさんが転んだ」。「だるまさんがジャンプした」「かかしになった」などオニの指示通りに多様な動きに挑む。鈴木さんは「家の中でも、親を木に見立てて体に登ったり、体でつくったトンネルをくぐったりして体を動かして」と話す。

 日本スポーツ協会アクティブ・チャイルド・プログラムのサイトや、スポーツ庁の「子供の運動あそび応援サイト」では、家庭で取り入れやすい運動遊びを紹介している。