手作りの竹細工おもちゃ、76歳男性が自宅前で処分したら…子どもに大人気 感謝の手紙も
布施谷航 (2021年4月28日付 東京新聞朝刊)
コロナ禍で人と人との触れ合いが減る中、竹細工のおもちゃが世代を超えたつながりを広げている。東京都八王子市狭間町の銀山(ぎんやま)和夫さん(76)が今月から自作のおもちゃを家の前に並べ、無償で配布。おもちゃを手に取った子どもたちのはしゃぐ声が屋内の作業場に聞こえてきたり、子どもから手紙が届いたりしている。
八王子市の銀山さん「ご自由にお持ち下さい」と書き添えて
「部屋で作業をしていると、外から子どもたちの声が聞こえてくるんです」。自宅前には鳥笛、トンボをかたどったヤジロベエといったおもちゃが並び、脇に「どうぞ、ご自由にお持ち下さい」とメモ書き。「家にたまってきたので、処分するつもりで並べたのですが…」。子どもたちからの思わぬ反響に、驚きとうれしさが入り交じる。
40代後半、伊豆旅行の際に展示会に行き、竹細工の魅力に取りつかれた。制作者に指導を請い、自宅の居間に作業場を設けるほどになった。これまで作ってきたのは、ミニチュアのそば屋やウナギ屋、団子屋など、昔の店や民家が中心。いま手掛けているのは釜飯屋だ。釜の一つ一つも細かく仕上げている。
「料理が届く前にお酒を飲みたくなるんじゃないかな」「そば打ちは外から見えるようにガラス張りにした方がいい」-。頭の中で想像した世界を再現できるのが、作品作りの魅力だ。しかし、処分するつもりで並べたおもちゃは、竹細工に趣味以上の価値があることを教えてくれた。
ポストに自筆の手紙 「もしおじかんがあればたけとんぼを」
「とってもおもしろいです。もしおじかんがあればたけとんぼを作ってほしいです」
「いつもありがとうございます」
こんな自筆の手紙が自宅ポストに入っていることもある。「コロナがはやっていなかったら、もっと言葉を交わせるんですが」。銀山さんは顔を見たこともない子どもたちからの感謝の言葉に、竹細工の魅力の奥深さに気付かされた。
「今の時代に竹のおもちゃが喜ばれるとは思わなかった」。これからも、昔ながらの家を再現するかたわら、子どもたちのおもちゃ作りに励むつもりだ。