コロナ禍を追い風に売り上げ5倍 埼玉の木製玩具メーカー「こむまぐ」 想像力で遊びが膨らむ商品を

近藤統義 (2020年7月6日付 東京新聞朝刊)
 コロナ禍の逆風を追い風にする会社がある。社員6人の木製玩具メーカー「こまむぐ」(埼玉県川口市)は、製造業では珍しいテレワークに取り組みながら、新たな商品の開発やファンの獲得に成功。インターネット販売の売り上げを大幅に伸ばした。社長の小松和人さん(39)は、確かな手応えを感じている。
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「ものづくりの楽しさを次世代に伝えたい」と話す小松さん=川口市で

育児サービス×木型職人 両親の仕事から発想、23歳でおもちゃ作家に 

 実家は鋳造用の木型を作る小さな町工場。川口の鋳物業の発展とともに、祖父が約60年前に立ち上げた。父に次ぐ3代目となるべく入社したものの、長引く不景気で鋳物工場は次々と廃業していた。「ほとんど仕事がなかった」。わずか1年半余りで退社した。

 この先の人生をどう進むか。ヒントになったのが母が当時、工場の隣で手掛けていたベビーシッターの派遣事業だった。育児サービスと木型職人。接点がない両親の仕事がつながったら面白いのでは-。そんな発想に加え、わが子を授かった時期も重なり「子どものためのものづくり」への思いが強くなった。

 23歳からおもちゃ作家として歩み始め、心がけたのが「子どもの想像力で遊びが膨らむ商品作り」。例えば、ドングリの人形が坂道をトコトコと滑る姿が人気の「どんぐりころころ」は、坂の角度を変えれば動きも変化する。繰り返し遊んでも飽きず、工夫次第で楽しみ方は広がる。

社員の家間を郵送しテレワークで製作、「アマビエどんぐり」も誕生

 百貨店や雑貨店への飛び込み営業で全国を回り、地道に販路を広げてきた。それを一変させたのが、新型コロナウイルスだ。売り上げの9割を占める卸しの注文が、店舗の休業でほぼ消えた。代わりにネット販売が急増。4~5月は前年同期の5倍に上った。

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コロナ禍で生まれた「アマビエどんぐり」(手前)。奥は人気商品の「どんぐりころころ」

 その鍵はテレワークによって浮かんだアイデアにある。社員の家から家へと部材を郵送して加工を重ね、完成品に仕上げる。空いた時間を使って、自宅製作の各工程を早送りで1本にまとめた動画を会員制交流サイト(SNS)で発信。新たなファン作りにつながった。

 さらに、疫病よけの半人半魚の妖怪を「どんぐりころころ」に落とし込んだ「アマビエどんぐり」も生まれた。「自宅では作業効率が落ちる分、どうせなら手間をかけよう」と社員で意見を出し合い、細部まで着彩にこだわった新作だ。

 今後もテレワークを日常の働き方として取り入れる。「腕が立つ職人を育てる点では対面での指導より難しくなる」とジレンマも抱えるが、こうした課題を一つずつ克服すれば会社は成長する。コロナ禍で学んだ教訓は将来に生きると信じている。

小松和人(こまつ・かずと)

 川口市生まれ。2003年におもちゃ作りを始め、2016年に株式会社化。2019年に社名を「こまむぐ」に改めた。直販店を兼ねた工房が同市元郷にあり、製作の様子を見学できる。「アマビエどんぐり」(3400円)はネットでの限定販売。8月には子ども向けのワークショップをオンラインで開く。

元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年7月6日

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